月夜の人魚姫 23 総つく
泣くのは上手くなった。目をこすらずに、涙をただただ流れさせるのが、コツだ。
「ハァッー、こんな事上手くなってもね」
でも、働く母には、こんな事が重要なんだ。沢山泣いても翌日には残さない。
タクシーがマンションの前に着く。車の中に、牧野つくしと涙を置いていく。
ガチャリッ
ドアを開ければ、暖の靴が見えて、子供のように、言い訳を考えている。
暖がソファーに腰かけながら、ウィスキーを煽っている。
「ただいま‥‥」
「遅かったな」
「あっ、うん。会社から呼び出しがあったから、もう一度出掛けたんだ」
「遊と一緒だったのか?」
「っん?なんで」
「遊のフレグランスの匂いがしてる」
「社長室に置いてあったのを倒しちゃったからかな?」
「ふぅーん、髪濡れてるぞ」
「えっ」
気詰まりな時間が流れる。
「嘘だよ。嘘。鎌かけただけだよ」
「‥‥‥」
カランッ 氷が揺れる
「なぁ、ミュウ‥俺じゃダメか?」
「‥‥‥」
「ミュウと蒼を一生守る。何も不自由はさせない」
「暖‥‥」
暖の手があたしの腕を掴む。ぐっと引き寄せられて抱きしめられる。
「なぁ、俺じゃダメか?」
この人に、縋ってしまったら楽なのだろう。
蒼の事も、自分の子供のように愛してくれるだろう。
でも‥‥あたしは、暖を牡として愛せない。
それに、あたしは誰とも結婚はしないつもりだ。
暖が、ギュッとあたしを抱きしめる。
「暖、あたし‥」
「‥もうちょっと、もうちょっとだけ‥このままで居させてくれ‥」
暖の温もりが伝わる。温かい温もりが。
暖を愛せたら幸せだった。
でも‥‥どんなにいい加減な男だろうが、どんなに手酷く裏切られようが、西門さんしか愛せない。
暖の髪を梳く。幸せになって下さいと願いを込めながら
「暖‥ご」
言葉を遮るように、暖が言葉を被せる
「愛せないなら愛さなくていいんだ。俺に未悠と蒼を守らせてくれないか?なぁ、おれと結婚してくれないか?」
あたしは、首を振る。
「暖、あたしは、暖が好きよ。だから、暖を愛せないと解ってるのに結婚するなんて事は出来ない」
「それでもいい。それでもいいから。未悠の将来を俺にくれないか?」
強く強く抱きしめられ、唇を奪われる。暖の舌があたしの唇をこじ開ける。
暖の指先が首筋を這う。ソファーに倒されて服を脱がされる。
刹那‥‥暖の指先が止まる。
胸元には、遊がつけた無数の紅い花弁が散っている。
「‥‥なんで俺じゃダメなんだ‥俺じゃ、お前の渇きを癒す事も出来ないってことか?」
「暖、ゴメンね」
あたしの瞳から、涙が溢れる。暖が指で涙を掬いながら、開けた衣服を手直しする。
「遊を愛してるのか?」
あたしは慌てて首を振る。首を振るあたしに
「だったら何故抱かれるんだ?」
「‥疼くの‥女のあたしが‥‥」
「‥‥ミュウの身体を鎮めるのは、俺じゃダメなのか?」
コクンと頷き
「遊は、あたしを愛さないけど、暖はあたしを愛してるでしょ?」
暖が、ゆっくりと寂しそうに笑う。
「そっか‥‥俺の出る幕無しって事か‥‥」
コクンと頷くあたしの髪の毛を、クシャリと撫でてから
「なぁ‥‥ミュウ、蒼の父親って誰なんだ?」
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