月夜の人魚姫 26 総つく
何回目の溜め息だろうか?出るのは、溜め息ばかりなりだ。
閉じ込めた思いを‥‥暖は、溢れさせろと言う。
「西門さんが普通の人だったらなぁー」
そんな事が心を過る。
「はぁっーーー」
トントントントンッ
顔を上げれば、遊が立っている。
「盛大な溜め息ありがとう」
「あっ、お帰り」
「お帰りじゃないよ。暖にバレたろ?」
「あっ、ゴメン‥‥」
「あいつの情報網ってスゲェのな。朝一でホテルにやって来て叩き起こされて、延々と説教喰らったぞ」
「‥‥ゴメン」
「てな訳で、セフレ卒業な」
「‥‥うん。でも‥疼いたらどうしたらいい?」
「どうしたらいい?じゃないよ。自分で考えろ。取りあえず会社潰されないようにしなきゃだろうよ」
「うん‥」
「で、瀬戸さんを住み込みで手伝いに寄越すってよ」
「えっ?」
「俺等が不適切な関係を結ばないように監視だってよ」
「あははっ‥信用ないね」
「だな」
二人で頷き合った瞬間、
ガチャリッ ドアが開き、瀬戸さんが現れる。
「未悠様、遊坊ちゃま、お久しゅうございます」
挨拶をして、ソファーにちんまり腰かける。
「お久しぶでございます。お、お、お茶でもお淹れしましょうか?」
「宜しゅうございますなぁー。未悠様の淹れて下さるお茶は優しいお味がしますからね」
遊が羨まし気にあたしを見る視線を感じながら、そそくさと台所に立ちお茶を淹れる。
瀬戸さんは、暖仕えの婆やさんだ。所謂、学友と言う奴の遊は、散々ばら暖と共に怒られてきたらしく大人になった今でも頭が上がらない。
あたしも然りだ。瀬戸さんには、蒼がお腹に居る時に散々お世話になった。
コポコポコポッ
心を込めてお茶を淹れる。西門さんが良く淹れてくれていたように。
部屋に戻れば、ソファーの前に正座中の遊を発見して可笑しくなる。
クスリッと笑えば、遊にジロリと睨まれる。
3人でお茶を啜る。茶飲み友達の様に。
「して、蒼坊ちゃまは?」
「倉科の両親が見ていてくれております」
「左様ですか‥‥そう言えば、蒼坊ちゃま、お茶を本格的に始められたとか?」
「えぇ‥‥」
って、色々知ってるんじゃないですかぁーとは、突っ込めず返事をする。瀬戸さん最強だ。
「して、未悠様は、なぜ暖坊ちゃまの求愛をお受けになられないので?」
「えっ?」
ニッコリと瀬戸さんが笑う。
隣で遊が笑いを噛み殺している。
「お聞こえになられませんでしたか?」
「あっ、いいえ‥‥」
あたしは、慌てて頭を振る。
「私めが言うのもなんですが、暖坊ちゃまは、口の聞き方はなっちゃーいませんが、中々もって素晴らしいお方ですよ。何よりも、未悠様にご苦労させる事はないかと」
「あっ‥はい」
「まっ、此処迄は、竜崎に大恩を抱えてる身としての言葉でございます」
ニッコリと笑って
「まぁ、暖坊ちゃまは、暖坊ちゃまでおバカな所がありますからねぇ、未悠様が呆れられるのも仕様がない事でございますね」
お茶菓子をつまみながら話を続ける。
「私は、未悠様と蒼坊ちゃまが大好きでございます」
「ありがとうございます」
「ですから‥‥お相手は誰であれ、幸せをお掴み頂きたいと切に願っております」
そう言い切ったあとに付け足しの様に
「暖坊ちゃま同様おバカな所は多々ございますが‥遊坊ちゃまの事も私は、大好きでございますよ」
ニッコリと笑う。
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