紅蓮 69 つかつく
嫁ぐ前と寸分変わらずに設えられた部屋なのに、たった3年の間にこんなにも余所余所しくなっている。
まるで、あたしの居場所は此処には無いと告げてるように。
眠れぬ夜を過ごしながら花芯のピアスに手を這わせる。ゾクゾクとする快楽があたしを駆け抜ける。汁が後から後からあたしの中から溢れ出す。快楽を求め、あたしの手淫は止まらない。なのに‥‥いくら弄っても絶頂を迎えられずに身体の火照りが収まらない。
「快楽を全てを受け入れた先の絶頂を与えてくれるのは、あなたのご主人だけですよ」
設楽先生のそんな言葉を思い出す。
身体の芯が火照り続け、身悶えする程に飢えていく。
ジリジリジリジリーン
いつの間にか眠っていたのか、目覚ましの音が鳴り響いている。
ベッドの中から枕元の時計に手を伸ばし鳴り響く音を止める。
窓の外を見れば、柔らかな日差しが暗陰から顔を出し始めている。
シャワーを浴び身支度を整えてから、台所で皆と一緒に朝食をとる。
「つくしちゃん、良く寝れた?」
「はい」
「なら良かったわ」
西門さんの視線を感じながら気が付かない振りを続け、お茶を啜りながら西門の母と会話を続ける。
「つくし様、お邸から永瀬様等がお目見えですが」
西門のお手伝いさんから声がかかる。
「部屋の方に案内して下さるかしら?」
そう声を返し、席を立つ。
西門の者にこの醜い身体を晒すわけにはいかないので、着付けの手伝いをしに来てくれたのだ。
ヘアーメイクが施され、一糸纏わぬ姿になった後、ハレの日に相応しい五つ紋の色留袖に身を包む。帯は二重太鼓、末広を挿して出来上がりだ。
「大変お美しゅうございます」
永瀬が言うように姿見には、美しい木偶人形が映っている。
木偶人形は、あたしの意思など関係ないように微笑んでいる。
秋晴れの中‥厳かな雰囲気で、奉告献茶式が執り行われる。
宗谷も、親族として参列している。
マスコミの前に姿を現さない宗谷グループの代表とその妻の写真を収めようと、家元襲名の為だけに集まったとは思えない程の報道陣の数が世界各国から集まっている。
態と見せつけるかのように、宗谷がつくしの腰を抱き寄せる。
さながら宝物を愛でるように。
襲名披露パーティーでは、新たに就任した理事として宗谷が紹介される。
何も知らされていなかった総二郎は、驚きを隠せないものの‥‥お得意のポーカーフェイスで努めて冷静に振る舞っている。
歓談の場でも木偶人形は微笑み続ける。美しく妖艶に。
「つくしさん」
設楽の声がして振り向けば、先日会った女性が設楽の横で微笑みを浮かべ立っていた。
宗谷の眉根が何かを考えるように寄せられる。
「設楽先生、本日はお忙しい所、兄の為に大変有り難うございます。お隣の方は、いつもお話しして下さる奥様でいらっしゃいますか?」
つくしが問えば
「えぇ。玲久、こちらがつくしさんと、ご主人の宗谷さんだよ。ご挨拶をなさい」
玲久と呼ばれた美しい女性が
「設楽玲久と申します。つくしさんとは、2度目ですよね?」
美しく微笑みながら問うてくる。
設楽夫妻、宗谷夫妻を様々な目が、見つめている。
勿論、司の視線も、桜子の視線も注がれている。
そんな中‥‥玲久と宗谷の視線も、束の間絡み合う。
玲久が微笑みを携えたまま漆黒の瞳で
「宗谷さんとは、以前どこかでお会いしましたか?」
そう問われ、宗谷は漆黒の瞳を見つめたまま首を振る。
「宗谷さん、どうされましたか?」
刹那‥
設楽の瞳に昏い闇が広がった。
それもほんの束の間。
いつもの人懐こい設楽の顔に戻る。
司は、設楽雄一とその妻玲久を見つめながら
「やはり‥あり得ない‥」
そう呟いていた。
宴は続く。様々な思惑を抱えたまま。
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