ciel 類つく 01
「あぁ、おはよう」
「おはよう、寝坊助さん」
天使が笑う。
笑い顔があまりにも綺麗で見つめれば
「どうしたの?何かついてる?」
キョトンとした顔で聞いて来る。
「あっ、いや‥朝から綺麗だなと思ってね」
ポッと顔を赤らめて、天使が笑う。
空に帰ってしまわないようにギュッと抱きしめる。
至極、あどけない顔をして笑っている目の前の彼女は、壊れている。
いや‥彼女だけじゃない。俺も壊れているのだろう。
彼女には、記憶がない。
彼女が俺の元にやって来たのは、偶然だった。いいや、運命だった。
どこから来たのか解らないけれど‥‥
ローズマリーの花がひっそりと咲いた朝、別荘の裏庭に立っていた。
ネコと一緒に。
名も憶えていない彼女に、cielと名付けた。
ネコの名前はソラ‥‥
真っ青に空が輝いていたから、
彼女の記憶が戻った時、彼女は天に帰っていくのだろうか?
「シェル」
壊れた彼女の名を呼びこの手に抱きしめる。
天に帰ってしまわぬ様に、強く強く抱きしめる。
この手から飛び立たぬ様に。
「類?どうしたの?」
「っん?とっても幸せだなぁーと思ってね」
「幸せ?」
「うん。シェルが居てくれる幸せ」
「どこの誰かも解らないあたしなのに?」
「あんたの瞳」
シェルの大きな瞳を見つめる
「あんたの頬」
シェルの頬に触れる
「あんたの唇」
シェルの唇をなぞる
「全部あんただよ。俺の目の前にいるのがシェル。それ以上でも以下でもないよ。ありのまんまのあんただ」
少しだけ哀しそうな色が混じった漆黒の瞳で、俺を見つめる。唇が触れ合う。
抱いてしまいたい。
その気持ちが溢れ出すのを防ぐ為に、ほんの少しだけの唇の触れ合い。
甘美な、甘美な触れ合い。
溢れる思いを蹴散らすように、背を伸ばして
「今日は、いい天気だからどこかに行こうか?」
そう声をかければ。先程迄の憂いが消え瞳を輝かしながら、ニッコリと笑って
「あたし、湖に行きたい」
「湖?」
「うん。この前行った海みたいなんでしょ?海の小さい版だってキョロちゃんが」
「海の小さい版?キョロちゃんって面白い事言うね?」
「違うの?」
「うーん、間違いじゃないけど、ちょっと違うかな?」
「じゃっ、湖に決定?」
「そうだね」
* **
「る、る、類が運転するの?」
「ご不満ですか、お嬢さん?」
「あははっ‥‥‥ご不満ではないですが‥」
「では、ないですが‥‥って何?」
「あははっ」
銀色に光るスポーツカーが日差しの中を駆け抜ける。
「アレッ?‥ちょっと上手くなった?」
「シェルは失礼だな。俺の運転は、前から上手いよ」
いつの間にか音が止み、車の中を音楽だけが流れている。
隣を見れば、幸せそうにコクリコクリと舟を漕いでいる。
このままが続けと俺は、祈る。
望むもの、望む事、全てをあんたにあげる。
あんたが望むなら、この命さえあんたに差し出しても構わない。
だからこの幸せが続けと俺は、祈る‥‥‥
「‥ムニャムニャ‥うーーーん‥‥もぉ‥お腹いっぱい‥‥」
「ぷぷっ、くくっ、あははっ」
俺のセンチメンタルな気持ちなんておかまい無しだ。
「シェル、着いたよ」
「うぅーーん。おはよぉ」
「くくっ おはよう」
えへへっと、鼻の頭を掻きながら笑ってる可愛い俺の天使。
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つくしちゃんが記憶喪失に
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