月夜の人魚姫 27 総つく
遊もまた少年の顔に戻っている。
「さて、そろそろ私は、お休みさせて頂きましょうかね‥」
そういいながら、勝手したたるなんとやらで、東の和室に向かう。
暖の居住区には、一緒に住もうが住むまいが必ず瀬戸さんの部屋が設えられられているのだ。
暖特有の瀬戸さんへの感謝と愛の気持ちなのだろう。
瀬戸さんのいる暮らしは、蒼が産まれたばかりの頃を思い出す。
産後の肥立ちが悪かったあたしの代わりに、倉科の両親と瀬戸さんで、奪い合うように沢山沢山抱っこしてくれた。
感謝してもしきれない。
* **
いつもと同じで、いつもと違う朝を迎える
蒼にモーニングコールを入れる。受話器の向こうから元気な声が聞こえて来る。
「蒼おはよう。あのね今ね瀬戸のおばあちゃまがいらしゃっててね」
来週の連休に遊びに来ないかと誘えば
「ママ、おはよう。ちょうど良かったよ。あのね、あのね‥京子おばちゃまがね、来週のお茶会にママとどうぞって」
「蒼、ゴメン‥ママ、ちよっとお話が解らないのだけど‥京子おばちゃまっていうのは、もしかして西門の家元夫人の事?」
「うん。昨日、俺ん家に来たんだよ。でね、来週のお休みに、ママの住んでる東京で京子おばちゃまのお茶会があるんだって」
「そうか。蒼、おばあちゃまに、お電話ちょっと替わってもらえるかな?」
「うん。俺、ご飯食べて来るね。ママも一日頑張ってね」
おばあちゃーん 蒼の母を呼ぶ声が、受話器から微かに聞こえる。
「未悠ちゃん、おはよう」
「お母さん、お茶会って?」
「えぇ、近くに寄ったとかで、態々いらしゃってね‥是非にって‥‥」
「そう‥‥その他には?何か言ってらしゃった?」
「何もおしゃっては、いなかったのだけど、蒼ととても気が合うみたいで‥‥始終笑顔でいらしゃってね。今日も学校が終わったら、お稽古をつけて下さるって」
「そう‥‥まさかバレてはいないよね?」
「えぇ、そんな感じではないのよ。だから尚更不思議でね。蒼も珍しくとってもはしゃいでいてね」
血が呼び合うのだろうか?
決して人見知りをするような子供ではないけれど‥‥誰でもウェルカムの子供ではない。
ましてや‥大人に向けてはしゃぐなんて事は、赤ん坊の頃から知ってる限られた人物にだけだ。
「未悠ちゃん‥どうしたらいいかしら?」
どうしたらもこうしたらも‥‥こちらに泊まりに来いと話してしまったし‥‥
行くしかないのかと‥‥腹を括る。
「お母さん‥‥度々悪いけど、蒼と一緒に来れる?」
「それは、勿論行けるけど、未悠ちゃんは平気?内々のお茶会みたいなのよね」
「うーーん‥いざとなったらお母さんにお願いしてもいいかな?」
「それは、構わないのだけど‥‥蒼がね、ママと行きたいから遊君に頼むって‥」
あははっ‥‥蒼、本気モードのお願いごとだ。
聞かないわけにイカナイってことなのね。
電話を切った後‥‥受話器の前で佇む。
トントン、トントンと肩を叩かれて、後ろを振り向けば‥
「未悠様、そろそろお出かけの時間でございますよ」
瀬戸さんがニコッと笑って立っていた。
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