ciel 類つく 03
ある日突然消えて、ある日突然帰って来たのだと父母が言う。
空白の時間に一体何があったのか?
あたしは憶えていない。
家を飛び出したのは、あたし達の間では良くある些細な出来事が原因だった。
まだ幼かったあたしは、自分の立場に直面した時とてもショックを受けたんだ。
突然消えたあたしを、両親は死ぬ程に心配して血眼にさがしたけれど見つからなかったらしい。
そして、突然にまた戻ってきた。
両親は、あたしを抱きしめて大泣きした。
あたしの中では、起きたばかりの出来事だったのに、
いつの間にか半年間という月日が流れていたのだから‥‥
浦島太郎もビックリだろう。
『そんなにも嫌だったのね』
ママの一言で、あたしの家出の原因は、半年間の間に立ち消えになっていた。
あたしの失われた記憶を好奇の目で見る人も全くの皆無じゃないだろうと言う事で、世間的に公表していた通り渡米して、そのままこちらの大学に通った。
失われた記憶を持つ者は、不確かな自分が怖くなると言うけれど‥‥‥
何故か、失った日々を思っても怖く無いどころか、どこか幸せな気分になるのだから不思議だ。
何があったのか、思い出したかった。
だけど‥‥思い出せたのは、
ネコの鳴き声と
一面に咲くローズマリーと
シェルと言う単語だけだった。
あの日から4年。アメリカ生活も終わりを告げようとしている。
立ち消えになった筈のお見合い話が再び浮上したというのだ。
「つくしちゃんが嫌ならお断りするわよ」
ママの瞳が不安げに揺れている。
4年の間ですっかり大人になったあたしは、どうせ逃げられない政略結婚。
ご縁が尽きないこの話に、どうせなら乗ってみようと趣旨替えをしたから大丈夫だ。
あたしは、首を振りながら疑問を投げつける
「ママ、あたしの頭は壊れたまんまだけどそれでもいいの?」
自嘲的に聞こえたのか?
「つくしちゃんは、壊れてなどいません」
少し困った顔をしながら真面目な声で返された。
「ねぇ、ママ、その方ってネコ好き?」
不思議な事を聞いて来るのね。そんな顔をしながらあたしを見つめ
「それは、ちょっと解らないけれど‥‥お伺いした方が宜しいかしら?」
そう聞き返して来る。
「ううん。別に構わないのだけど‥‥ネコ好きだったらいいなぁーって思ったの」
「そうね。あっ、釣書とお写真ここに置いておくわね」
そう言い残して、部屋を去っていく。
どれどれと摘みあげようとした瞬間‥‥スマホが鳴り響く。
「つくし、用意出来た?」
キャッシー達がお別れパーティーを開いてくれるというのだ。
「うん。いま行く」
釣書を投げ捨てあたしは部屋を出た。
朝方まで飲んだくれ、迎えに来た車に乗り込み機上の人となった。
食事の時間以外‥何も考えずにぐっすりと眠った。
シートベルトをお着け下さいの声に起こされる迄ぐっすりと。
「ふわぁっーーー 良く寝た」
伸びをして、シートベルトを着けた。
飛行機がゆっくりと着陸して日本に着いた。
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