月夜の人魚姫 32 総つく
それが既に迷惑なんですが‥‥とも言えず、蒼のキラキラと輝く瞳と、西門さんの押し売りのような誘い‥‥
追い討ちをかけるように、雪さんの一言
「未悠ちゃん、若宗匠もそうおしゃって下さってるのだし」
「ママ、お願い」
「未悠さん、是非」
周りに懇願されて
「ご迷惑おかけ致しますがどうぞ宜しくお願い致します」
そう頭をさげていた。
頭を下げた瞬間、一様に皆の顔が綻ぶ。
西門さんが蒼に微笑みながら
「じゃぁ、蒼君宜しくね」
蒼と握手をしている。
蒼の爪の形と西門さんの爪の形が同じで、あたしの胸は、ドキリとする。
親子って変な所が似るんだなぁーとシミジミと感じる。
蒼の黒い瞳と黒髪があたしに似ているからなのか、あたしにそっくりだと周りには言われているけれど‥‥伏せた目が、唇が、身体つきが、指先が西門さんと良く似ている。
「‥‥マ‥ママ‥どうしたの?」
「あっ、このケーキ美味しいなぁーって」
「ママ、食いしん坊さんだね」
蒼の言葉に、皆が笑う。
至極当たり前のように和やかな空気が流れる。まるで、パズルのピースがピタッと嵌ったように。
西門さんがあたしを見ながら
「未悠さん、この後のご予定は?」
あたしが答えるよりも早く雪さんが
「何にもないみたいですよ」
微笑みながら返事をしている。
「お母さん‥‥この後買い物行きたいって?」
「っん?あぁ、京子さんとご一緒しましょうって」
えっ?とばかりに雪さんをみれば
「京子さんとは、趣味が合うみたいでね」
なんて言いながら京子さんと目を合わせ笑い合う。
「じゃぁ、蒼君と3人でクジラの背中を見に行きませんか?」
蒼がワクワクした顔をしながら
「ママ、俺行きたい」
気が付けば‥‥
「ママ〜〜総二郎さ〜ん」
蒼が嬉しそうにクジラの背中を駆けている。
「蒼君、可愛いですね」
目を細めながら蒼を見て西門さんがそう話す。
「ありがとうございます」
そう返事を返すのが精一杯だ。
西門さんが、蒼の名を呼びながら駆け出していく。蒼に追い付き2人であたしの前を歩き出す。蒼が嬉しそうに笑っている。
蒼が後ろを振り返り
「ママ〜〜ママも来てー」
蒼を真ん中に3人で手を繋ぐ。‥‥まるで、擬似家族のように。
疑似家族?
本当は血が繋がってる。なのに、2人はそれを知らない。だから擬似家族。
他人が見たら幸せな家族に感じるのかしら?そんな事を心に過らせながら3人で手を繋ぎクジラの背を歩く。
真っ赤な夕陽があたし達擬似家族を照らし出している。
心が気持ちが溢れ出して行く。
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