月夜の人魚姫 33 総つく
高速道路のネオンが時折、車中で眠る蒼を照らし出す。
どこか懐かしく、温かな空気が流れている。
西門さんがバックミラーを覗きながら話しかけてくる。
「蒼君、良く寝てますね」
「えぇ‥‥散々はしゃいで疲れたんでしょうね」
バリトンの柔らかい声が好きだった。漆黒の瞳が、髪が好きだった。
全てを愛していた。いいえ、今でも愛している。
「‥‥さん、未悠さん?」
「あっ、はい」
「どうかしました?あっ、疲れましたよね」
あなたを、あなたを想っていました。なんて口にする事は出来ないであたしは曖昧に笑いながら首を振る。
「いいえ。ネオンがネオンが綺麗だなって」
直接横を見れないで、バックミラーに映る西門さんを楽しむ。彼の頬が柔らかく微笑んでいる。
「未悠さんは、不思議な人だ。時折とっても可愛らしい少女になる」
思いがけない言葉に涙が出そうになって、慌てて窓の外を見ながら目を瞑る。
「未悠さん、着きましたよ」
いつの間にか眠っていたのか‥‥マンションの地下車庫で起こされる。
「蒼、蒼、起きて、起きて着いたわよ」
「うぅーーん‥むにゃ‥ふふっ‥うぅーん」
「蒼、蒼」
西門さんが、あたしの声を制して蒼を軽々と抱き上げる。
「上まで送って行きます」
「あっ、でも‥‥」
「良く寝てるから起こしたら可哀想ですよ」
エレベーターが音も無く上に昇って行く。
ガチャリッ
ドアを開ければ、瀬戸さんがヌゥーッと現れて
「未悠様、お帰りなさいませ。お隣のお方は‥‥?」
キランッと瀬戸さんの瞳が光る。
「あっ、西門流の若宗匠。西門総二郎さんよ」
「左様でございましたか。これは、これは、お噂通り色男でいらっしゃる。全くもちまして未悠様の周りには色男が集まりますね。オホホッ」
西門さんが蒼をベッドに寝かした瞬間、蒼が目を覚ます。
「ふっ」
と優しく一つ微笑んで、蒼にケットを掛けながら、西門さんが蒼の目を見つめ、おでこにコツンと自分のおでこを合わせた。
「ママと一緒だ」
寝ぼけ眼の蒼が嬉しそうに嬉しそうに微笑む。
「そっか、ママと一緒か」
「うんっ。ママと俺の「大好きだよ」の儀式だよ。なんで総二郎さんが知ってるの?」
蒼の言葉に、西門さんが柔らかく微笑んで
「なんでかな?蒼君のママと気が合うのかもな」
2人の会話を耳にしながら、あたしはそっと部屋を出る。
瀬戸さんが、いつの間にかあたしの前に立っていて
「おっ」
と驚けば、ニッコリと笑いながら
「未悠様、西門様にお茶が入りましたとお伝え頂けますか?」
「あっ、はい」
で‥‥‥
瀬戸さんと、西門さんとあたしの3人と言う何ともまぁのメンバーでお茶を飲んでいる。
お茶を飲み終えた西門さんが、立ち上がろうとした瞬間‥
ガチャリッとドアが開き、遊と雪さんと京子さんの3人が部屋に入って来る。
「あれっ?若宗匠じゃないですか?」
「あらっ、総二郎さん?」
「お、お、お邪魔致しております」
雪さんをチロリと見れば、そぉーっと視線を外される。
お陰で、おでこコッツンの話題が出なくて、良かったと言えば良かったのだけど‥‥
3人から6人へとなんともまぁ珍妙なメンバーでお茶を啜っている。
あたしの長い長い一日は、まだ終わりを告げない。
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