月夜の人魚姫 37 総つく
倉科の両親は、養女としてではなく、ありとあらゆるものを使って『倉科未悠』を仕立て上げた。
未悠ちゃんが亡くなった事は全て伏せ海外生活を続けていた倉科の両親は、敢えて金沢の街で暮らす事を選んでくれた。
未悠ちゃんが4つまで生活していた街だから。
それと共に豪さんは、暖に頼まれたあたしの絵を、暖には渡さず「芽生え」と名をつけて、未悠コレクションに足した。
想像で描いていた未悠ちゃんの絵画と共に個展を開いた。
驚く程に違和感無く「芽生え」は加わった。
未悠コレクション、そして雪さんと面差しが似ているあたしを、周りの人はいとも容易く『倉科未悠』として認識した。
戸籍附票の閲覧制限をして貰ったので、周りへの聞き込み程度の調べでは、あたしが養女だとわからないようになっている。
雪さんが愛おし気にあたしのお腹をさする。
勿体ない程に、あたしとお腹の中の子を愛してくれた。
いいや、今も変わらず愛してくれている。
〜〜〜〜〜
臨月を迎え良く歩くように指示を出されてから、犀川神社から若宮大橋まで河川敷を散歩する。若宮大橋の付近にはコスモスが揺れる。
その日もいつものように河川敷を散歩した。
帰りに中央郵便局に寄ろうと、市街地に入り込もうとした瞬間だった。ネコが道路を飛び出した。危ない‥咄嗟にネコを追い掛けて‥‥走ってきた自転車から守った。
キッキィーキッキー
途中で気が付いた自転車は、スピードを緩めてくれたのが幸いだったが‥‥ブレーキが間に合わずに、ぶつかった。
出血もなく、痛みも無くすんだ。
「だ、だ、大丈夫ですか?」
「えぇ‥ごめんなさい。驚かせて。なんでもないみたいだから大丈夫よ」
気にする男の子と別れ、あたしはタクシーを呼び邸に戻った。
いつもと違いタクシーで戻って来たあたしを見て、雪さんと豪さんが駆け寄って来た。
「でも、痛くも何ともないから大丈夫よ」
ケラケラと笑った。
雪さんは、あたしの手を取り邸の車で産院に向かった。
なんでもない筈のお腹が、急激に痛み出血が突然おこった。
「倉科さん‥緊急手術になります」
そう医師に言われ、緊急手術が始まった。
麻酔をかけられ薄れいく意識の中、どうかどうか‥無事にこの子と会わせて下さいと願っていた。
雪さんと、豪さんから沢山の血液を貰い、状態が安定したところで帝王切開が行われた。
もう少し遅れていたら、かなり危なかったようだ。
雪さんの迅速な行動のお陰で、子宮破裂の箇所を縫合する事が出来て、子宮摘出を避けられた。
そして‥蒼と会う事が出来た。
退院の際に
「今後の出産は、今回縫合した所が確実に破裂を起こしますので、諦めて下さい」
医師に言われた言葉だ
蒼を抱きながら、蒼に会えたそれだけで何も要らない。素直にそう思えたんだ。
〜〜〜〜〜
2人の血があたしの中を流れている。
蒼が産まれる迄時折遠い目で、あたしの中の未悠ちゃんを見ていた雪さんが、未悠そのものを見るようになっていた。
あの日から‥あたしは名実ともに2人の本当の娘になった。
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