月夜の人魚姫 39 総つく
「あっ、はい」
慌てて、布巾でラグを拭く。
遊と西門さんの2人で手伝ってくれる。
一通り吹き終えた後‥‥
「西門さん、騙されたんですか?」
聞いてみたい。でも、聞きにくい事を遊が遠慮なく聞く。
「っん?」
「青い目のお子さんですよ」
「あぁ、一度も手を出してなくて、若宗匠のお子さんを妊娠してるとなって、結婚でしたから、騙されてるになるんでしょうかね?」
鼻の脇をこすりながら、そんな事を話している。
あまりの展開に‥あたしは、目をしばたかせる。
一度も手を出していない?じゃぁ、何故?
あたしの心を代弁するかのように家元夫人が
「総二郎さん、では何故?何故あの時、結婚を受けたのですか?」
「__何故結婚したかですか?」
「えぇ」
「さしたる意味は無いんですよ__どうせ避けられない政略結婚ならば、誰かの役に立とうかと思ったって事ですかね‥‥」
「__どうせ避けられない?」
「えぇ、西門に生まれ跡を継ぐのであれば、避けられないことですよね?」
「もしかして__2度目の結婚もそうなの?」
「流石、家元夫人‥察しが良いですね。最初の相手からの紹介ですよ。お陰で幸せになる事ができた。だからこれで名実ともに自由になって下さいと言うね__2度目の女性もワケ有りでしたからね」
バシッ
平手打ちの音が響き渡る。
わなわなっ、わなわなっと‥‥京子さんが震えながら涙を流している。
「あなたは‥あなたは‥‥なぜ、なぜですか?なぜ全てを自分で解決しようとするの?」
「__家元夫人に、どうにか出来た事なんですか?」
「総二郎さんは、私を誰だと思っているのですか?曲がりなりにもあなたの母ですよ?そんな投げやりな人生を誰が送らせたいと思うのですか?」
「__それは、詭弁ですよね?たったひとつ無くした所で、後を絶たないですよね?現に2度目の縁談が来たじゃないですか?」
詭弁なんて__それは、それは‥違う。
京子さんは、いつでもあなたの事を思っていた。誰よりも誰よりも思っていた。
「__詭弁だと言うのであれば、詭弁だと思って頂いて構いませんわ。でもね、総二郎さん、あなたに本当に好きなお嬢さんがいらしゃって、それを私達にも直訴してくる位の覚悟を決めたなら、幾らでも力になって差し上げましたわ‥‥‥西門の家に入って頂くと言うのは、あなたが愛する女性を、守らなくてはいけないと言う事なんですからね」
京子さんの細い肩が哀しみで揺れている。
カタンッ
雪さんが、グラスを5つテーブルに置きながら
「他人が口出していいのか解りませんけど‥‥」
雪さんが一つ前置きをしてから、皆のグラスに真っ赤なワインを注いでいく。
「若宗匠、いいえ総二郎さん__あなたは、なぜ何もしない内から自分の人生を決めつけてしまったの?あっ、それとも本当の恋をした事がないから、どうでも良いと思われたのかしら?」
ガタンッ 西門さんの掌がテーブルを叩く
「なっ、なにも知らないじゃないですか__」
「えぇ勿論、知らないわよ。だって、きちんと伝えなければ、あなたの考えなんてあなたしか解らないじゃなくて?」
雪さんがフワリと笑ってから
「うふふっ、これは未悠ちゃん、遊君にも言える事なんだけどね‥‥きちんと伝えなければ何も解決しないし、何も伝わらない。___それに、あなた達は、生きてるのよ。生きてるって、それだけで素晴らしいの。なのに、なぜきちんと生きようとしないの?なぜ、自分の感情を押し殺してしまうの?」
火、水、金、土、日 0時更新


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事