月夜の人魚姫 43 総つく
なんで、二つ? あたしの頭の中を?が過る。
「ホラッ」
渡された〝 月夜の人魚姫 〟 の一枚は、あたしと西門さんを見下ろしていた青い青い海のように青い人魚姫のリトグラフ
もう一枚は、光を纏った……
「空気の精だよ」
遊が大事そうに絵を撫でながら__教えてくれた。
「これは?」
「莢が描いた原画だよ」
「莢先生が?」
「あぁ__哀しみを纏った人魚だけじゃ寂しいって、莢に言ったんだ」
普段見せない顔をして遊が話す。
「遊がなぜこれを?」
「莢と俺は恋人同士だったからな」
「えっ?莢先生と遊が?」
「あぁ、俺の純情ってやつだ。哀しいかな__見事に玉砕しちまったけどな」
「__玉砕?」
「あぁ、結婚するから別れましょうって。あっけなく振られちまった。その絵は、莢の手切れ金だとさ。所詮、年上美女のアバンチュールってやつだったんだろうよ。」
あたしは、昼の光を浴びながら哀しく笑った莢先生の美しい横顔を思い出す。
~~~~~
「つくしちゃんは、西門君の事が好きなのよね?」
「えっ?」
「うふふっ、こう見えても伊達に長い事生きてないから」
「__あははっ……」
「秘めたる思いってとこか……」
ポツリと言ったあと___
「じゃぁ、内緒友達って事で……私の恋話でも聞いてもらおうかな?」
そう言いながら莢先生が話しだしたのは、年下の彼の事だった。
「彼といるとねバカみたいに幸せなの__でも、いつか終わりの時が来ると思うと辛くて辛くて仕方がなくなるの」
「莢先生ほど何でもお持ちの人が何故終わりを考えるのですか?」
「何故?何故って15も年下なのよ?今は良いわよ。でも、彼が男盛りの時、私は幾つだと思う?」
どこか遠い所を見ながら莢先生があたしに聞いて来る。
「つくしちゃんは、何故?西門君への気持ちに蓋をしているの?」
「それこそ終わりが見えてるじゃないですか?」
「はぁっーー そっか。そうだよね……お互い辛いね」
「……傷つくって解ってて何で好きになるんでしょうね」
「そうね。傷つくって解ってたのに……なんでだろうね?」
莢先生は、そう言いながら哀し気に笑った。
哀しい笑顔なのにとってもとっても美しい笑顔だった。
~~~~~
「ミュウどうした?」
「あっ、ううん…….ねぇ、遊__遊と莢先生って幾つ年が違うの?」
「15」
「この絵を描いた時に遊と莢先生はお付き合いしていたのよね?」
「あぁ__」
「遊の忘れられない女性って__莢先生なの?」
遊が黙り込む。
「ねぇ遊、教えて?」
「教えてって、ミュウは莢の事知らないだろう?」
あたしは、首を振り絵を指差して
「その人魚は、あたしだよ」
そう答えた。
遊の瞳が大きく大きく見開かれる。
「えっ?」
あたしと人魚を交互に見ながら
「えっ?えっ?えぇーーーーーーっ」
そこそんなに驚くかな?なんて思いながら遊を見れば
「やっ、やっ、マジか?マジか?」
頭を抱えながら、あたしの顔を見て
「そっかぁ__ミュウを初めて見た時からどこか懐かしいと感じがしてたのは、これが原因だったのか__そっかぁ」
そう言いながら、尚もあたしの顔を見る。
「__でも,お前こんな色っぽいか?」
何度も何度もあたしを抱いた癖に__この科白?
「はははっ……」
可笑しくなって笑いが出て来る。
「ねぇ、遊が色っぽいって感じるのは誰?」
「__そりゃ決まってるよ。今も昔も莢だけだ。ついでだから言わせてもらうと今も昔も、抱きしめて一晩中キスしたいのも莢だけだ」
「ぷっ」
「じゃぁさ、良い事教えてあげる……莢先生は、結婚なんてしてないよ」
「あっ?」
許せ! 莢先生と思いながら……
でもきっと……これが正しい事なのだと思ってる。
次の科白を聞いたら遊は、どうするのだろう?
あたしは、幸せを感じながら次の言葉を口にする。
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