月夜の人魚姫 44 総つく
遊が黙って首を横に振ったあと
「__いや……結婚したからだと思ってたから」
「そっかぁ……遊は、追い掛けなかったんだよね。莢先生が結婚するって聞いても」
「そ、そ、それは違う。莢が莢が突然俺の前から消えたんだ」
「ふぅーーん。でも、一度も会いに行ってないんだよね?莢先生の所に」
「そ、そ、それは……住んでる所も何も知らないのに会いに行けないだろうよ」
「ふぅーーん。一ノ瀬のお爺様か暖に頼めば簡単に調べてもらえるんじゃないの?あっ、うちの会社だってそれくらいなら調べられるんじゃない?」
あたしが意地悪く言えば遊の喉がゴクリと上下する。
「何が言いたいんだ?」
「いやっ、案外男らしくないなぁーって」
クスクスとあたしは笑う。
「ミュウ……お前、案外意地悪だな」
「まぁね、遊には沢山お世話になってるけど……沢山弄られてるしね」
クスクスとあたしは笑いながら、多分、いま凄—く嫌な女に見えるだろうなぁーと可笑しくなる。
「ミュウ……お前、楽しんでない?」
あたしは、コクンと頷いて
「こんな事でもない限りさぁ~中々、一矢報えないしね」
ニッコリと笑う。
「ぐっ」
「ねっ? とは言っても、大変お世話になった遊君にそろそろ教えてあげないとね」
「莢先生……お子さんいるんだよ。蒼の二つ上だから9才になったところかな?」
「___そうか__」
うん。と返事を返せば、うち拉がれた子猫のようにガクンッと肩を落とす。
っん?何故に肩を落とす?
「莢、幸せなのかな?——あっ、でも結婚してないんだよな?じゃぁ、じゃぁ、俺がその子の親父になっても良いってことか?」
9才で、なんでピンと来ない?
あんたは、あんたは、人の色恋には敏感な癖して……もしや、もしや自分の事には鈍感バカか?
なんてあたしの声は、どうやらダダ漏れだったようで
「ミュウ、ミュウ、それってどういう事だ?」
ハッと口を押さえてみたけど、全てダダ漏れだった。
幸いな事に、鈍感バカはスルーしてくれたので
「うーーん、だから莢先生のお子さんは,只今9才です。そして、先生は大好きな大好きな年下の彼の子供を一人で生みました」
なんであたしがそんな事を知ってるかって? 莢先生から送られてきた月夜の人魚の原画には、あたし宛の一通の手紙が添えられていたんだ。
あの手紙もまた、蒼を生む時にどれだけ力になってくれたか解らない。
「ちょっと待っててね」
自室に戻り宝箱をもって来る。
中には、様々な宝物が入ってる。
蒼のエコー写真、へその緒。
西門さんから貰った露天で買ったシルバーリング、青い一粒ダイヤのネックレス
その中から莢先生の手紙を取り出して、遊に手渡す。
遊がゆっくりとゆっくりと中の手紙を開く。
つくしちゃん
元気ですか?その後、つくしちゃんと彼の恋はどうなりましたか?
うふふっ。幸せになってるといいなぁー
私?私は、残念な事に玉砕しました。
結婚するって言ったらあっさりと振られちゃいました。あははっ
ちょっとは、追い縋ってくれるかな?なんて期待したんだけどね。
ははっ、無理だったみたい。
でもね、彼は私に宝物を授けてくれました。今その宝物は、あたしの中で芽吹いています。
顔を見る前から、愛おしくて愛おしくてたまりません。
振られちゃって不幸な筈なのに、幸せで幸せでたまりません。
お腹の子は、私だけの子供として育てていくつもりです。
でも……誰かにあたしは幸せなんだよと自慢したくなっちゃいました。その時、つくしちゃんあなたの顔がヒョイっと浮かんだの。
なんでだろう? 考えていても答えは出ないので迷わずにお知らせする事にしました。
うふふっ、迷惑な手紙でごめんね。
まぁ、振られ女の戯言だと思って許して下さい。
じゃぁ、またいつか会える日を楽しみにしています。
Saya.Y
遊が
愛おしそうに手紙を抱きしめながら涙を一粒零す。
火、水、金、土、日 0時更新


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