月夜の人魚姫 45 総つく
綺麗な涙にあたしは見惚れてから
「遊、ううん、一ノ瀬社長。あなたに一週間休暇を与えます」
そして、もう一通の手紙を遊に手渡す。
中には、莢先生の生まれたてのお子さんの写真と沖縄の住所が書かれている。
「今もココにいるのかどうかはわからないけどね」
「沖縄?」
「うん。海外に行く筈だったんだけどね。幾ら安定期とは言え海外はちょっととなって、沖縄にしたみたい」
「そっか‥‥‥じゃぁ、取りあえず行ってくる」
「うん。頑張れ」
「あぁ、サンキューな」
遊は、ジャケットと財布だけを手にして部屋を出て行った。
幸せに、どうか幸せになれと願って遊を見送った。
そのまま一対の絵に視線を注ぐ。
一枚目は、西門さんと何度も一緒に見た絵だ。
青い人魚が月を見上げて哀しそうに笑ってる。
儚いのに、どこか強い光をもっている。
二枚目は
空気の精になった人魚……ただただ幸せそうに笑ってる。
暫く眺めたあと、遊の部屋に絵を戻した。
ピコンッ
スマホを覗けば遊からのラインだ。
いま、羽田に着いた。ミュウ、サンキューな!
律儀な男だなーと思いながら文字を眺める。遊は、いま幸せで幸せで堪らないのだろう。はやる心を押さえながら過ごしているのだろう。
笑いがこみ上げる。
うふっ うふふ うふっ
莢先生と風花ちゃんは、どんな顔をするのかしら?
うふっ うふふ うふっ
思い浮かべながら幸せを噛み締める。
「ヨシッ」
あたしも幸せになろう。そう決意する。
まっ、その前に先ずは、仕事、仕事だ。
遊がいない一週間のスケジュールを確認する為に秘書室長の境さんに連絡を入れる。
電話の向こうの境さんに
「代行は、全て私がしますので宜しくお願い致します」
そう告げれば
「では、そのように早急に手配させて頂きます」
きちんとした説明もないのに、そんな言葉が帰って来る。
多分、いや間違いなく一番迷惑をかける筈なのにだ。
なんとなく喜ばせたくなって
「あっ、境さん……一つ朗報です」
西門さんが広告塔になってくれる旨を話していた。
「未悠さん、それは本当でいらっしゃいますか?」
「えぇ、本当よ」
「そ、そ、それは大変助かります。来週の大仕事の一つは、宣伝媒体の選出でしたから。そうですか。西門流の若宗匠が……それでしたら、一週間と言わずどーんと10日ほど休みをとって頂いて結構なくらいです」
境さんの弾む声を聞いていたらあたしも何だかとっても嬉しくなって電話を切った。
瞬間
スマホが鳴り響く。
慌ててタップすればスマホの向こうからは、蒼の弾んだ声がする。
「ママ~ 起きたんだね」
「あぁ、うん。蒼は今どこ?」
「今ね総ちゃんのお家にいるんだよ」
「えっ?総ちゃんのお家って西門のお家?」
「うん。そうそう。えへへっ。あっ、ママこれギャクみたいだね」
スマホの向こうで蒼が嬉しそうに話している。
「でね、でね、バァバァも総ちゃんのお家に居てね今晩お泊まりする事になったの」
「お泊まり?」
「うん。総ちゃんのお父さんがねお稽古見てくれるんだって。でねぇママ、総ちゃんのお父さんって西門の一番偉い人なんだよ。知ってた?凄いよねーー俺ね、お茶の人になりたいんです。って言ったんだ」
「蒼、お茶の人になりたいって誰に言ったの?」
「っん?総ちゃんのお父さんだよ。凄く喜んでくれたよ」
「えっ?」
「あれっ?聞こえなかった?」
大きな声で蒼がもう一度話してくれる。いや、声は聞こえてる。ただ思考が追い付かないだけ。
「でね、お稽古の後にバァバァと京子さんと総ちゃんのお父さんと俺でお出かけするんだ」
「お出かけ?」
「うん。お出かけ。だから俺、今日総ちゃんのお家にお泊まりするから。じゃぁ、ママ寂しいかもだけど頑張ってね。じゃぁね」
プープープー
何も喋らなくなったスマホを持ったまま、今の会話を反芻していた。
火、水、金、土、日 0時更新


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
「遊、ううん、一ノ瀬社長。あなたに一週間休暇を与えます」
そして、もう一通の手紙を遊に手渡す。
中には、莢先生の生まれたてのお子さんの写真と沖縄の住所が書かれている。
「今もココにいるのかどうかはわからないけどね」
「沖縄?」
「うん。海外に行く筈だったんだけどね。幾ら安定期とは言え海外はちょっととなって、沖縄にしたみたい」
「そっか‥‥‥じゃぁ、取りあえず行ってくる」
「うん。頑張れ」
「あぁ、サンキューな」
遊は、ジャケットと財布だけを手にして部屋を出て行った。
幸せに、どうか幸せになれと願って遊を見送った。
そのまま一対の絵に視線を注ぐ。
一枚目は、西門さんと何度も一緒に見た絵だ。
青い人魚が月を見上げて哀しそうに笑ってる。
儚いのに、どこか強い光をもっている。
二枚目は
空気の精になった人魚……ただただ幸せそうに笑ってる。
暫く眺めたあと、遊の部屋に絵を戻した。
ピコンッ
スマホを覗けば遊からのラインだ。
いま、羽田に着いた。ミュウ、サンキューな!
律儀な男だなーと思いながら文字を眺める。遊は、いま幸せで幸せで堪らないのだろう。はやる心を押さえながら過ごしているのだろう。
笑いがこみ上げる。
うふっ うふふ うふっ
莢先生と風花ちゃんは、どんな顔をするのかしら?
うふっ うふふ うふっ
思い浮かべながら幸せを噛み締める。
「ヨシッ」
あたしも幸せになろう。そう決意する。
まっ、その前に先ずは、仕事、仕事だ。
遊がいない一週間のスケジュールを確認する為に秘書室長の境さんに連絡を入れる。
電話の向こうの境さんに
「代行は、全て私がしますので宜しくお願い致します」
そう告げれば
「では、そのように早急に手配させて頂きます」
きちんとした説明もないのに、そんな言葉が帰って来る。
多分、いや間違いなく一番迷惑をかける筈なのにだ。
なんとなく喜ばせたくなって
「あっ、境さん……一つ朗報です」
西門さんが広告塔になってくれる旨を話していた。
「未悠さん、それは本当でいらっしゃいますか?」
「えぇ、本当よ」
「そ、そ、それは大変助かります。来週の大仕事の一つは、宣伝媒体の選出でしたから。そうですか。西門流の若宗匠が……それでしたら、一週間と言わずどーんと10日ほど休みをとって頂いて結構なくらいです」
境さんの弾む声を聞いていたらあたしも何だかとっても嬉しくなって電話を切った。
瞬間
スマホが鳴り響く。
慌ててタップすればスマホの向こうからは、蒼の弾んだ声がする。
「ママ~ 起きたんだね」
「あぁ、うん。蒼は今どこ?」
「今ね総ちゃんのお家にいるんだよ」
「えっ?総ちゃんのお家って西門のお家?」
「うん。そうそう。えへへっ。あっ、ママこれギャクみたいだね」
スマホの向こうで蒼が嬉しそうに話している。
「でね、でね、バァバァも総ちゃんのお家に居てね今晩お泊まりする事になったの」
「お泊まり?」
「うん。総ちゃんのお父さんがねお稽古見てくれるんだって。でねぇママ、総ちゃんのお父さんって西門の一番偉い人なんだよ。知ってた?凄いよねーー俺ね、お茶の人になりたいんです。って言ったんだ」
「蒼、お茶の人になりたいって誰に言ったの?」
「っん?総ちゃんのお父さんだよ。凄く喜んでくれたよ」
「えっ?」
「あれっ?聞こえなかった?」
大きな声で蒼がもう一度話してくれる。いや、声は聞こえてる。ただ思考が追い付かないだけ。
「でね、お稽古の後にバァバァと京子さんと総ちゃんのお父さんと俺でお出かけするんだ」
「お出かけ?」
「うん。お出かけ。だから俺、今日総ちゃんのお家にお泊まりするから。じゃぁ、ママ寂しいかもだけど頑張ってね。じゃぁね」
プープープー
何も喋らなくなったスマホを持ったまま、今の会話を反芻していた。
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