ちび 総つく
黒子の宮地と言われるくらい、普段、音も無く忍び寄る男が
大きな声をあげ、血相を変えて走ってくる。
邸の中に緊張が走る。
「か、か、櫂様と、菫様が‥‥ 行方不明でございます。」
「宮地、落ち着いて説明してくれ。」
「はい‥…」
聞けば、初等部と幼稚舎から戻った2人は、つくしが用意しておいたオヤツを食べ終わると、お稽古に使う花を摘むために、内弟子2人と共に庭に出たらしい。4人で仲睦まじく花を摘んでいたが、内弟子が家元に呼ばれちょっと目を離した隙にいなくなったらしい‥… ほんの1、2分の間の出来事だ。
「まさか、誘拐?」
慌てる俺に、つくしが待ったをかける。
「宮地さん、申し訳ないのですが、菫と櫂が消えた場所に案内して貰えるかしら?花摘みだと池とは場所が違いますよね?」
「はい。池の方は、見て参りましたが大丈夫でございました。その後にお二人がお見えになっても大丈夫な様に、警備のものに見張らせております。」
「そうですか。表玄関も裏玄関もこの時間帯だとお弟子さん達も使用人の方達も待機してる時間ですわよね?」
「若奥様のおっしゃる通りでございます。」
「 ”奥” も見て頂いてるんですよね?」
「はい。家元と家元夫人はもともと奥のお部屋にいらっしゃいましたので、念の為にお探しもしました」
話しながら、宮地を先頭に3人で、2人が消えたと思われる場所へ案内して貰う。
「あらぁー そう。もう まったく‥… に、しても ぷっ」
つくしが可笑しそうに一つ笑ってから
「宮地さん。本当にごめんなさい。誘拐も事故も、何の心配も要りません。」
「ほらぁ、宮地さん 若宗匠、 見てみてくださいませ。」
つくしが指差す方を見ると、丸い石が三つ巴のように並べた上に、冬菫の花と小さい木の枝一つ。
全くもって俺には解らん‥…謎の暗号
「ねっ、多分 社ですよ。」
「あぁー 流石、若奥様でございます。」
2人の会話にちっともついて行けない俺。
「どういう意味だ?」
「邸内社がこの石3つ。多分、三つ巴の紋を模したのかな? 菫の花と枝が、菫と櫂の意味。なので、社に2人はいますっていう意味よ。」
「はぁぁーーーー」
えらく感心してしまった。これを作った櫂の頭の良さ、そしてそれを見破ったつくしの母心に
茶会の準備から始まり、内弟子、使用人を取り仕切り、その他諸々の雑事をこなすつくし。
語学もいつの間にか堪能になって、海外に向けての茶道啓蒙活動には欠かせないつくし。
重鎮や、後援会を取り纏めるのもつくしの役割だ。
それなのに、ちび2人の事を良く見て、よく話しを聞いてやっている‥…
「お前、良く解ったな‥…」
「うふふっ 櫂の目下の趣味は、暗号作り。菫の目下の趣味は邸内冒険‥ この前だってね〜 って、その前に社に行ってみましょうか。」
花の中を歩き、邸内社に辿り着く、中を覗くと‥… スヤスヤ眠る ちび2人。
そっと近づきながら、俺に囁く
「総、櫂を抱っこしてお邸まで運んであげて。あたしは菫を抱っこするから。」
立派な総領息子として普段は、凛として稽古に励む櫂。
泣き言も言わず、黙々と稽古に励む姿は、親ながら感服する程だ。
少し前櫂に、お茶は好きかと聞いたら。間髪入れずに好きだと返してきた。
稽古は好きかと聞いたら、本当は嫌いだとこれまた間髪入れずに返してきた。
それなのに、何故稽古に励むのかと聞いたら、「母様のことがすきだから」とストレートに、返してきた。
「父様を越して、みんなに認められるようになる。」櫂が言う。
西門の重鎮初め、内弟子も後援会の奴らもほとんどの者がつくしを認めている。それでも口さがないやつらはいる。つくしの出自を何かと貶し、卑しい血が入ってるから将来は大成はしないと、櫂を貶める奴らがいる。
櫂は、自分が何か言われるのは全く構わねぇチビ助だ。
「うちの母様は世界一だ。」と胸を張り言いたいのだと、櫂は言う。
それには、己が頑張るのが一番大切だと、朝稽古にも文句を言わず励んでいるのだ。
元々、頭のよい櫂は、茶道だけではなく、勉強にしろ、運動にしろ学年1番だ。
それでも櫂は努力を続けるのだ。大好きな母様を守るため。
だけど、こいつはまだこんなに ちびっこい。
俺の腕の中にスッポリと収まっちまう。
櫂、そんなに頑張るな。
お前の大好きな母様はそんなに弱えぇ女じゃねぇぞ。
なんたって雑草のつくしだ。踏まれても踏まれても踏ん張るつくしだ。
父様なんてな、何を隠そう母様には頭が上がんねえんだ。
俺の事なんてお前らは、とっくに超してんだぞ。
母様は、ちび2人を心底愛してんだぞ。俺が時折焼きもちやくぐらいな。
だから、そんなに頑張るな。
菫、お前は、うーんお前は、ちこっとガンバレ。
兄ちゃん見習ってガンバレ。
寝て、食って、笑ってばっかいねぇで、ちこっとガンバレや。
まぁっ、シスコンの櫂は、
「父様、菫ちゃんは、いるだけでいいんだよ。菫ちゃんが居るとお部屋の空気がパァーっと明るくなるんだよ。」
なんて言って、つくしをウルウルさせてやがる。
櫂をカウチに置こうとしたら、
「父様?」
「あぁー 起きちゃったか?」
「うん。僕ね、菫ちゃんとお社冒険したんだよ。」
「そっかー 楽しかったか?
「うん。楽しかったし、嬉しかった。父様と母様が見つけてくて、父様が抱っこしてお邸まで連れて来てくれて、すごく嬉しかった。ありがとう父様。」
「あぁー 櫂を久しぶりに抱っこ出来て父様も嬉しかったぞー。ありがとうな。」
「‥…父様、ちゃんと言わずに消えちゃってゴメンナサイ。」
「っん? 暗号残したんだからいいだぞ。気にすんな、」
「うん。父様ありがとう。僕みんなに、謝ってくる。」
「そっかぁー。みんな櫂の事大好きだからなぁー、志摩なんてきっと「天才ですわ。櫂坊っちゃま!」って、言って鼻高々で、櫂の謝るのなんて聞きはしねぇだろうな。」
「あはっ、きっと父様の言う通りだね。でも、僕みんなに心配かけちゃったから謝ってくるね。」
カウチから飛び降り、元気に走り出す。ちび助。
いつの間にか、つくしが俺に寄り添いながら
「櫂って、良い子だよね。本当に良い子。だから時々凄く疲れちゃうんだよね。」
「‥…ねえ、総 そんな時に櫂が一番甘えたい相手は、誰だと思う?」
「っん?つくしお前じゃねぇのか?」
「うふふっ、残念な事にあたしじゃないの。櫂が凄く疲れちゃった時に一番に甘えたいのは、総なんだよ〜。あたしと一緒なんだよ。」
「そっか。」
「うふふっ、総が大好きなのは、あたしの遺伝かなぁー」
嬉しくなって、思わず抱きしめようとした瞬間‥…
「かかさまー すぅちゃん しっこでるぅーー」
ちびの声がした‥…
やっぱ、菫お前はもうちこっとだけ、ガンバレや。
**すぅちゃんのぼうけん**
あたし、すぅちゃん。4さい。みどりバッジのねんちゅうさん。
にぃにぃは、かいくん。
すぅちゃんにとってもやさしいの。
すぅちゃんがしたいことは、なんでもしてくれる。
おちゃのおかしもすぅちゃんにこっそりくれるんだ。
すぅちゃんね、おちゃのおけいこは あんまりすきじゃないの
でもね、にぃにぃのおちゃは だいすき
おちゃのおかしは、もっとすき。
そうそう、きょうね、にぃにぃと、おやしろぼうけんしたんだよ。
すごくすごくたのしかったの。
めめがさめたら、かかさまがね
「すぅちゃん。こんど おやしきぼうけん するときは、かかさまたちもさそってね」
って、いうの。
えへへっ、すぅちゃん たいちょうさんになるのかな?
えへへっ、たのしみだなぁーーーー
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