紅蓮 73 つかつく
俺は、つくしを取り戻す為の小石を投げる。
「宗谷さんは、何でも良くご存知でいらっしゃる__ならば、設楽先生の奥様が、美繭さんがお亡くなりになられた時に近くに居た事ご存知ですよね」
美繭……その名を耳にした瞬間、宗谷の顔が醜く歪み俺の目を射るように見た
……俺は神に感謝する。
信じてなどいなかった、いいや憎んでさえいた神に感謝する。
俺のたった一縷の希望が間違っていなかった事に。
一縷の希望……宗谷の愛する女を想像してみたのだ。奴の生育歴を見るうちに容易い程に想像出来た。
他の者に言えば、〝異母姉だろうよ〟そう一蹴される事だろう。俺自体も何度かそんな考えが頭を過ったほどだ。
でも___もしも、もしも、奴が自分の異母姉を愛していとしたら、全てが納得出来る気がしたのだ。光のような少年がある日を境に変貌を遂げた理由も何もかも。おぞましいと他人は言うかもしれない。
だが___
誰かを狂おしい程に愛すると言う事は、どこか歪んでいるものなのだ。
「____玲久さん近くに?」
宗谷の怪訝な声がする。
「えぇ__彼女、あの海の近くで事故に遭われたんですよ」
「あの海の近くで___」
畳み掛けるように宗谷に刃を向ける
「彼女どうやら一旦、脳死判定を受けていらっしゃるようですよね」
「あぁ、そのことでしたら……噂が勝手に一人歩きしているようですよ___」
「_噂?うーーーん噂ねぇ……何事も順調に進められる宗谷さんが珍しく人の言う事をそのまま信じるのですね?それとも……二階堂氏からの報告書ですかね?」
宗谷の瞳が一瞬、ゆらりと揺れた。
「___司君は、何が言いたいのかね?」
冷静な物言いの中に苛立ちが混じっている。
「何が言いたい?いいえ__ただ、玲久さんの顔は、かなり弄られているようですね。それにあの瞳…...」
「____瞳?」
喉の奥から絞り出したような嗄れた声がする。食いついてくる宗谷に俺は,一気に攻込む。
「えぇ、瞳の色ですよ。虹彩移植ってご存知ですか?」
「虹彩移植__?」
「簡単に目の色を変える事の出来るインプラント手術ですね」
一つ微笑んでから
「失礼、関係のない話が多過ぎましたね……ただ、偶然にしては色々あるなと感心しただけの事ですので、どうぞ聞き捨て下さい」
時を見計らったように総二郎の付き人がやって来る。それを合図とばかりに会釈をしながら俺等は、場を離れる。
設楽玲久と宗谷美繭の関連性は、俺の想像の枠の中だけのことだ。どう足掻いてみても今宗谷に投げたこと以上のことは調べられなかった。だが、宗谷なら…..美繭の名だけであれ程に動揺するほどに、今なお愛し続けているのなら……俺の解らなかった何かを己自身で見つけるかもしれない。
狂おしい程に愛する女が生きているとしたら? 宗谷は驚喜し歓喜することだろう。
そして......
必ず取り戻そうとする筈だ。
なぜ? 簡単な事だ。
歪んだ愛は、人を盲目にするからだ。
己の愛が間違っていようがいまいが___もう一度取り戻したいと心から願ってしまうのだ。
俺は、俺の愛する女を取り戻す。光を命をもう一度この手に取り戻す。
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