紅蓮 77 つかつく
「もう、本当に先輩は、純情でいらっしゃるんだから。床上手は、卑下することではありませんことよ」
美しく澄ました顔でクスリと笑う。
「道明寺さんで物足りないようでしたら、お上手な方をいつでも紹介致しましてよ」
真顔であたしに向き直り、冗談とも本気とも掴めない事をサラリと言いのける。
桜子の優しい言葉に__鏡を見る度に憂鬱だったあたしの心が晴れていく。
二人で部屋に戻れば、テーブルの上には、ブルーローズが飾られ、ワインボトルとトワレが置かれていた。
トワレをシュッと一拭きした後__桜子が飲み物を注ぐ。
シュワシュワっと口の中に細かな刺激が訪れる。
「美味しい」と呟けば__
「トスカーナにある花沢のシャトーのスプマンテですわ。お二人の結婚式にはお出しするらしいですわよ。ちなみにそちらのブルーローズは、美作さんからでしてよ」
ブルーローズにそっと触れる。
「ブルーローズの花言葉は、〝夢叶う〟でしてよ」
そう言ったあとに
「西門のご実家からは、こちらですわ」
封書を開けば、記入済みの養子離縁届けの用紙が入っている。
「後援会長には、滋さんがなさって下さるようなのでご心配は無用でしてよ」
驚いて顔を見れば、
「先輩が疑問にお持ちの事をお答えさせて頂きますわね」
そう言ったあとに
「あくまでも憶測に過ぎない事なのですが__私達は、一つの小石を投げることにしましたの」
そんな言葉を枕詞に語ってくれたのは......
宗谷の愛していた女性が死んだとされる美繭さんで、それが設楽先生の奥様の玲久さんではないかと言う事だった。
「__美繭さんと先輩お二人の繋がりが稀薄なんです......ただ、美繭さんのいらした所が先輩が一時期お逃げになられたあの海辺の場所とごく近くでして____この方が美繭さんなのですが見覚えございまして?」
そう言いながら何枚かの写真があたしの前に差し出された……
その写真に写っていたのは、美しく儚気に笑う女性だった。
写真を見た瞬間__パズルのピースがピタッと嵌るように、様々な記憶の映像があたしの中で蘇る。
あの夏の日、麦わら帽子を追い掛けて出会ったた女性だった。
遠くの海を空を眺めながら、自由が欲しいと願った女性だった。
「__あの日の……」
あたしの呟きを桜子が掬い上げる。
やはりお会いになられた事があったのですね。そう言ったあとに
「これで、全てが繋がりましたわ__それにしても流石、愛する男の勘は鋭いですわね。___フフフッ それよりも野獣の勘でいらっしゃるのかしら?」
可笑しそうに一頻り笑った後に真顔に戻り
宗谷があたしを憎み……
なのに、憎むと共に美繭さんに似たあたしを、いつの間にか本気で愛し始めたのではないかと言うのだ。
あたしは、宗谷との馴れ初めを話す。
宗谷が愛していたのは、桜子達の想像通り〝美繭さん〟だったこと。
あたしの形を愛し、資金援助をしてくれた事。
見返りにあたしは、あたしを差し出した事。
全てを話した。
「でも__あたしと美繭さんって似ていないわよね?」
あたしの問いに、桜子は首を振りながら……
容姿ではなくあたしのもつ光と、美繭さんのもつ光が酷似しているのだと話した。
「__とは言え、色々な資料で美繭さんを想像した結果に過ぎないのですけどね。でも当たらずとも遠からずだと思いますわ。だって……闇を抱える人間には、先輩のもつ光は、どうしても手に入れたい。そして、手に入れた最後、絶対に失いたくないと思わせる光なんですもの」
美繭さんの写真にそっと手を触れながら
「それに__真っ直ぐなこの瞳……先輩にそっくりですわ」
優しく呟いた。
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