月夜の人魚姫 49 総つく
幾度も、幾度も……まるで今までの分を取り戻すかのように。
なのに…..
あたしの心は、穏やかな海に漂っているかのように、フワリフワリと軽くなっていく。
だから……
総に貫かれる度に〝欲〟が溢れ出る。
蒼をこの世に産んだ時に諦めた欲が出る。
もう恋愛は、はじめない。そう決めた筈なのに欲が出る。
この人と二人で一緒に恋をしたいと欲が出る。
朝も、昼も、夜も全ての〝時間〟を一緒にいたい。ともに白髪が生えるまで……そんな事を願ってしまう。
倉科の家は金沢で代々伝わる名家だ。今の倉科未悠なら総を望めば手に入れる事が出来るだろう。
でも、あたしはこの人に、いいえ……西門に、跡取りを産む事が出来ない。
蒼が居るじゃない? ううん。蒼を巻き込むワケには、いかない。蒼には、父親の存在を与えてあげれなかった。
だから……
蒼の人生は、蒼だけのものだ。
なのに…..
目の前のバカ男は、あたしに向けて責任を取れという。しつこく、しつこく言って来る。
ポーカーフェイスが壊れてく。しどろもどろに答えを返すしか出来なくなっていく。
もう子供が産めないと言っているのに 「蒼が居んだろうよ」なんて言い出してくる。事もなげに莢さんに聞いたなんて言い出して……挙げ句の果てに、蒼が自らお茶の人になりたいと言い出したなんて……
あたしの心は、総の言葉に引き寄せられるようにグラグラぐらぐら……で
頭を下げる総の項を見たら「仕方ないなー」なんて答えていた。
あっという間に身支度を整えさせられて、呼び出した車に乗せられた。
総の手は、あたしの手を握ったまま放さない。
「そう言えば、お前なんで声が変わったの?」
この場に似合わない事を聞いて来る。
「妊娠するとホルモンの関係で声帯に変化する人が居るんだって」
あたしも真面目に答えてる。
「黒子もそうか?」
「うん。自分でもビックリしたよ」
倉科の両親の養女になった経緯なんて言う細かな事は、もう知っていて
「遊さんや、暖さん、倉科のご両親には、感謝してもしきれねぇな」
なんて真面目な顔で言う。
「莢さんもお子さん連れてこっちに来るらしいぞ」
新情報まで知っている。
「俺達、すげぇー遠回りしちまったな…..とは言え原因の大半は俺だよな。ごめんな」
あたしは、首を振り。
「あたしも蒼も凄く幸せに過ごしてたから……」
「あぁ、雪さんに聞いた。すげぇ大事にしてくれたんだな」
頷きながら、涙が溢れる。後から後から……
身一つで彷徨ったあたしは、いつの間にか沢山の愛に支えられていた。
「今までの分、ずっと一緒にいてもいいか?」
総があたしに聞いて来る。
「ずっと一緒に居たら、総、生気を吸われてカピカピになっちゃうかもよ?」
耳許でそう囁けば
「くくっ、望むところだ」
笑いが返って来る。
総の肩に凭れ掛かり
「幸せにしてあげるね」
そう言えば、目の前の愛おしい男は
「あぁ、幸せにしてくれ」
屈託なく笑う。
夜が明けていく。
光のシャワーが降って来る。
あたしは、この人を
……ううん、この人を取り巻く全てのものを幸せにして行こうと決意する。
手始めにあたしは、あたしを幸せにしてあげよう。
明日で最終回♪


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