紅蓮 78 つかつく
「先輩、如何なさいますか?」
如何なさいますか?
そう聞かれ……あたしの心は千々に乱れる。
司の元に帰りたい。
でも……
色々な事がグルグルとあたしの中を掻き乱す。
呼吸が荒くなり、発作の恐怖が襲って来る。
死んでしまうのではないかと思う程に息が苦しくなる……
目の前が真っ白になりそうになった時、
ガラッと戸が開く音がして__誰かがあたしの手を掴んだ。
大きな大きな手に掴まれてあたしの心は、落ち着きを取り戻して行く。
手の主は、心配げに微笑みながら
「つくし、大丈夫だ。お前には俺がいる」
これは、夢?
これが夢ならば一生目覚めたくない。そんな思いに囚われる。
呼吸がゆっくりとゆっくりと自分のものになってくる。
大きな手に抱かれてあたしは、目を瞑りスヤスヤと眠る。
この数年間、感じた事のない様な穏やかな眠りが訪れる。
幸せな幸せな眠りが訪れる。
スッキリとした気持ちで目が覚める。
随分と長い事眠ってしまったのかしらそんな事を思って窓辺を見回せば雪見障子からは、月がの灯りが見えている。
頭がクリアーに目覚めていく。自分のでない体温を感じふと隣りを見れば……
「司__?なんで?」
あたしは、まだ夢の世界を漂っているのだろうか?
見た目と違い柔らかなくせ毛に触る。夢なのに随分とリアルだなと思いながら、くるくると指に絡ませて柔らかなくせ毛の感触を楽しむ。
瞬間 腕を掴まれて、押し倒される。
淫夢なのだろうか? 司の指先があたしの身体を愛撫する。心地よくあたしの身体全体を愛撫する。優しく優しく愛撫する。心が優しさで包まれ温かな涙が一粒頬を伝った。
「どうやってここに?表には宗谷のSPが居たでしょ?」
そう問うあたしに、司はニヤリと笑って〝長持〟に入ってきたんだという。
「すげぇ、窮屈でやんの」
そんな思いまでしてあたしに会いに来てくれた事が嬉しくてあたしは涙する。
「つくし……泣くな……」
司の指の腹があたしの目尻の涙を拭き取る。優しく優しく……
夢ではなく現実の司があたしの目の前にいる。
心が歓喜する。
痺れる程に歓喜する。
優しい仕草に心は、とろりと蕩けていく。
あたしの身体は、司を激しく求め貪り始める。
司の指が舌が宝物を愛でるようにあたしの身体を優しく優しく愛撫する。全ての柵を忘れ、心が高鳴り司を受け入れる。
司の熱い塊があたしの身体の奥底を突き上げる。心はとろりとろりと蕩けていく。
なのに……
身体の奥底がこの刺激じゃないと主張する。
心とは裏腹に……
あたしの身体は淫らに燃えない。
目の前の男をこの上ない程に愛しているのに。
あたしの身体は、逝く事ができずに
心に置いてけぼりを喰らい燻っている。
絶望感があたしの身体に巣くう……
愛する男に抱かれながらいだく絶望は、あたしの気持ちを身体をこの上なく惨めにしていく。
あたしの中の絶望感を追い払うために必死によがり声を上げた。
よがり声を作る度に虚しさが襲い、
あたしの陰部は、枯れた泉のように渇いていく。
愛しているのに何故?
薔薇色だった心に、
ポタリと真っ黒な何かが落ちる。
黒い何かは、薔薇色をどんどんどんどん浸食していく。__やがて薔薇色は、跡形も無くし真っ黒に染め上げられる。
真っ黒に染め上げられた瞬間.....
司があたしの中に
真っ白な精を放った。
司の指があたしの髪を優しく梳いている。
幸せなのに絶望を感じながら優しい指先を甘受する。
刹那
胸元のピアスが青白い月夜の光に照らし出されてキラリと光った気がした。
唐突に思い出す……東屋で聞いた宗谷の言葉を
「つくしの心は、私を嫌いだろうけど、つくしの身体は、私を好いてくれているね……ほらっ、つくしよく見てご覧。真っ赤に口を開け淫らに汁を垂らしながら男を誘うここをね」
空調の良く効いた部屋なのに、寒さで身体がぶるぶると震え出す。
心が寒くて痛い痛いと血を流す。
この瞬間、心は、心だけは、至極幸福な筈なのにも関わらず血を流す。
あたしの心は、酷寒の地獄を彷徨う。
凍える寒さが肌を切り裂き
切り裂かれた肌からは
血が流れでて
真っ赤な蓮の花を咲かせる。
真っ黒な心の中に
紅蓮の花が咲いている。
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