紅蓮 79 つかつく
狂おしい程に愛している女の名を呼ぶ。
刹那
脳裏を過ったのは、蝶の舞うあの温室で後ろ手を縛られながら美しく淫らに男を誘っていた女のことだった。慌てて首を振り邪な考えを押し出した。これ以上つくしを傷つけてはいけないと。
いや違う。
俺は蓋をしたのだ。淫らに男を誘ったニンフなど居なかったと。
つくしを再び抱いた事で所有欲が沸いてしまったのだ。だから、宗谷のことは忌まわしい過去として葬ろうと蓋をしたのだ。
淫らで妖艶に男を誘い込むつくしに欲情したことも、つくしがそれを求めている事も気が付いていたのに。
つまらぬ嫉妬が邪魔をして、俺しか知らなかったつくしの身体が驚く程に開発された事実を見て見ないふりをしたのだ。
過去は、消せないとわかっていたのに......
過去も
現在も
未来も
全てを受け入れるのが愛だとわかっていたのに。
いや、その姿に己自身も狂おしい程に惹かれているのに蓋をしたんだ。
「つくし......」
幾度も幾度も名を呼ぶ。彼女が幻でない事を確かめるために......
こんなに近くに居るのに関わらずつくしを遠く感じ
強く、強くつくしを抱きしめた。
俺の胸に凭れながら、つくしが口を開く
「__司、玲久さんの事はどこで?」
俺が得た情報をつくしに話せば…..
「設楽先生がなぜそんなことを?いえ、それよりも美繭さんがなぜ玲久さんに?」
思案気な顔をして俺に問うてくる。
「あの女は、記憶を失い……どんな経緯か解らないが設楽の女房の代わりをさせられてるんじゃないかと思ってる」
俺の得た美繭の過去を話す。
小さな時に引き取られた経緯。明るく美しく光り輝く少女時代。それが16の誕生披露の日を最後に表立って出て来なくなった事などを
「評判の美人だったし、宗谷家とは血の繋がりがなかったが宗谷の祖父が殊更に可愛がっていた。戸籍も養女になっていたからそれこそ降るように縁談は、持ち込まれていたらしいんだ……」
「__そう」
司の話を聞きながら、海で出会った人を、そして、宗谷が語った美繭さんを思い出す__そしてあたしは、一つの考えに辿り着く。吐き気が襲ってくるような醜い考えに辿り着く。
打ち消せば、打ち消す程に、間違いない事だと心の奥が囁いている。
彼女の不運な人生を思い涙を流す。同時に彼女に何気なく投げた言葉を思い出していた。自由っていいわね。そう言った彼女にあたしは、なんて酷い事を言ったのだろう……
己の浅はかさと傲慢さに強い後悔が襲って来る。
許して下さいお願いしますと、あたしは
彼女に?
神に?
わからない何かに向けて呟いていた。
そして、理解した。
宗谷があたしを憎んだわけを。
それと共に強くあたしに執着したわけを。
宗谷が初めて可哀想に思えた。
彼もまた心の中に紅蓮の花を咲かせていたのだから。
雪見窓に薄らと日が射し初めている……
この光が眩い光に変わった時
暗闇から何を光に変え同時に何を影に変えて行くのだろう。
ぼんやりとそんな事を考えた。
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