イノセント 07 司つく
いつからの癖だろう?彼女は時折こうして空を見上げる。見上げる瞳には、この星空が映っているのだろうか?それとも何か別のものが映っているのだろうか?
ギィッー バタンッ
パチンッ 灯りをつける。
「ふぅっーーーー」
溜め息を吐きながら手を洗い冷蔵庫を開けポットに入ったジャスミンティーをグラスに淹れる。
コポコポコポッ
グラスにジャスミンティーが満たされていく。空っぽだったグラスの中に色がつく。琥珀に光った色がつく。
ジャスミンティーを口にする。喉元をゴクリと音を立て通り過ぎていく。
チッチッチッ
音のない部屋に時計の針の音が響き渡る。何気なく時計を見れば__当に過ぎ去った時間を指している。
「替えの電池あったけな__」
ポツリと呟いて買い置きの電池を探した。
「あれっ__こんなところにあたし置いたっけ?」
部屋に入って来た時に感じた違和感をもう一度、感じた時……
RRR……スマホのベルが鳴った。
「雅哉さん?うん。いま着いた__えぇ。わざわざありがとう。ううん__うん。わかった。ううん大丈夫。雅哉さんも無理しないようにね___」
つくしの心の中に今日起った出来事が蘇ってくる。突然の告白と__抱かれる寸前までいった事を。
きっとあのまま何事もなかったら、今頃雅哉に抱かれていたのだろう__そんな思いが胸を過る。
雅哉に抱かれる事が嫌なわけではない。いつかそうなるのだろうと思っていたし、実際それを受け入れようと覚悟も決めていたのだから。
なのに……
雅哉と別れタクシーに乗り込んだつくしは、安堵していたのだ。
__この人となら。
そう決めた筈なのに……雅哉との関係が進まなかった事に安堵していたのだ。
プルッと首を一振りして
「__今日は、突然の事で驚いちゃったんだよね……」
自分を納得させるように一人呟いてからお湯をためるためにつくしは、ユニットバスに向かった。
お風呂の栓を閉め顔を上げた瞬間、己の顔が目に入る。鏡の中には、大人になったつくしが映っている。
なのに__つくしの心は、あの日から一歩も動けないままだ。
鏡の中のつくしが自嘲気味に笑っている。〝そろそろ前にすすみなさいよ〟と言ってるように。
あの日から8年近く経とうとしているのにも関わらず__つくしの心は、深く傷ついたままなのだ。
ヘアーターバンで前髪を上げバシャバシャと顔を洗った。
ポチャンッ
たまったお湯にそっと身体を落とす。
「ふぅっー」
小さな声を漏らしたあと、理由もわからない涙がポツリポツリと零れ出す。
浴槽の中に丸まる様に全身を潜らせた。まるで泣いた事を消し去るかの様に。
* **
カーテンの隙間から漏れてくるジリジリと肌を焦がす様な日差しに目が覚める__
「ふぅっーー暑い」
ケットの中で身体を目一杯伸ばしてから勢いをつけて飛び起きた。頭の中で今日一日の行動を反芻しながらシャワーを浴びTシャツとショートパンツを着た。
ハミングしながらシーツを入れた洗濯機を回し、掃除機をかける。身体を少し動かせばエアコンを入れているのにも関わらずジットリと汗をかく。
太陽の下、真っ白いシーツを干す。
ハタハタとシーツが風に揺れている。
いつもと変わらぬ休日の一日が始まる。
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