イノセント 09 司つく
「牧野、昨日頼んでおいた図面出来てるか?」
「この強度計算ってこれでよかったんだっけ?」
一級建築士の資格を収得したからといってまだまだ下っ端なつくしの仕事は、縁の下の力持ち的な役割を担う事が多い。
「つくしさん、これどうやるんですか?」
「牧野先輩、こっちもお願いします」
男性の多い職種だからなのか、はたまた面倒見が良いつくしだからなのか?後輩やアシスタントの子達は、ついついつくしを頼る。
特に休みの次の日は、牧野つくしの大安売りの様にあちらこちらで名前が呼ばれる。
引っ張りだこのつくしに、所長室から慌てて出て来た立川が声をかける。
「牧野! これからクライアントの所へいくから付き合ってもらえる?」
「はい。って、打ち合わせって先生とですか?」
キョトンとしながら、立川に問えば
「野坂、悪い。牧野私の補佐に暫く付いてもらうから、他の仕事割り振って。遠藤の補佐には田中と木下であたって」
事務所の人間に指示を出してからつくしに向き直り
「急で申し訳ないんだけど、車の中でクライアントについては話しするから、あと5分で用意してくれる?」
「はいっ。先生」
つくしが目をパチクリとしばたかせながら、この降って沸いたような幸運に感謝して力一杯返事をした。
「__牧野、良かったな。頑張って合格した甲斐があったな」
「つくしさん、ガンバですよ」
皆に激励されつくしの顔には笑顔の花が咲く。
「決まればいいよな」
「あぁ、なんでも先方の社長が先生の作品を見て是非先生の話しが聞いてみたいってなったみたいだぜ」
「流石、先生だな」
つくしの後ろでそんな会話が交わされていた。
身支度を慌てて整えながら誇らしい気分を胸に抱きつくしは立川の元に向かった。
トントンッ
「先生、お待たせ致しました」
車の助手席に座りながら、なぜ今回つくしが選ばれたのかの説明を受けていた。
「__アシスタントは、語学が堪能で女性の一級建築士っていう要望があったのと__実は、この仕事が決まれば使う設計管理に新和と組ませてくれるっていうからさぁ__牧野にお願いしたかったのよ」
「__新和建設って……雅哉さんのですか?」
「そう。雅哉君にはちゃんと聞いたんだよね?」
「あっ、はい」
返事をしながらひと月程前の事をつくしは、思い出していた。
「新和の今の事は?」
つくしは、緩やかに首を降りながら
「詳しい事は__」
「そっか__噂通り、こないだ内から新和建設ガタガタなのよ。大きな仕事を他社に取られたのを皮切りに、間の悪い事に下請けの不正やら__あっ、これは新和が悪いわけじゃないのだけどね……イメージがガタガタで決まりかけていた他の仕事も幾つか契約が白紙になりそうなんだよね。今、噂が噂を呼んでいる状態みたいでね__株価が落ちているのは知ってるよね?」
詳しい事は何一つ雅哉の口から語られる事は、なかったが__新和建設の株価が落ちているのは、ここひと月ほど業界内では、有名な話しだった。
「雅哉君の所には、色々とお世話になっているから出来れば恩返ししたいっていうのがあってね__立川の設計で決まれば、新和と組めるってきいてね。やってみたい仕事で尚かつ恩返しも出来るなら……是非チャレンジしてみたいって思ったのよ」
信号が赤になり車が停まる。つくしの顔を見て
「__色々と私情を挟みまくりなんで申し訳ないんだけど__是非とも牧野にお願いしたいなって__ちょっと忙しい思いさせちゃうけど宜しくね」
立川が話し終えると同時に信号が青に変わり車が走り出した。
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- イノセント 12 司つく
- イノセント 11 司つく
- イノセント 10 司つく
- イノセント 09 司つく
- イノセント 08 司つく
- イノセント 07 司つく
- イノセント 06 司つく