イノセント 10 司つく
つくしの問いに
「あっ、ゴメン、ゴメン、肝心な事話してなかったよね__っと、もうじき着くんだけど__道明寺HDの都市開発なのよ。まだ内々みたいなんだけどね」
まるで暗い穴の中に吸い込まれていく様に道明寺HDの地下車庫に車が入っていく。
「牧野、どうしたの?具合悪い?」
つくしは首を振りながら
「__あっ、いえ、あっ、お腹……そう、お腹が空いちゃったみたいで」
「ははっ、ホントあなたは大物よね。今日は、取りあえず担当者への顔合わせと今までした仕事の資料を提出するだけだから終わったらお昼食べに行きましょ。ねっ」
どこか遠い所で立川の声を聞きながら__つくしは、様々な事を考えていた。
結果、天下の道明寺HD、いくら大事業だとしても社長自らが打ち合わせの席に出る事などないと結論を下したのだ。
「牧野、何食べたい?久しぶりに鰻なんてどう?それともお寿司にする?あっ、フレンチもいいよねぇー。どうせなら景気付けにメープルのフレンチでも行く?」
「あっ、先生のお好きな所で」
「あらっ、そう?うふふっじゃぁ美味しいものご馳走しちゃうから期待してて」
立川とつくしが受付で名を名乗れば、ほどなくして見るからに秘書然とした優雅な女性が2人の前に現れる。
「こちらでございます」
二人は、女性の後に付いて直通エレベーターに乗る。
チーーン
エレベーターが向かった先は、最上階にある社長室だった。立川自身も何も聞かされていなかったようで珍しく瞳を瞬かかせていた。
コンコンッ 扉がノックされ開かれた。
大きな窓を背に悠然と座っていたのは___かつてつくしが愛した男だった。
8年の歳月は、男の容貌をより美しい王者に変えていた。
覚えてる筈がないと心の中で呟きながら__つくしは、隠れる様に立川の後ろに従った。
「ようこそ、立川先生」
バリトンの声がする。懐かしい声がする___
「本日は、お目にかかれて大変光栄です。立川設計事務所の立川美幸と申します。こちらは私のアシスタントの牧野です」
「アシスタントを勤めさせて頂きます牧野つくしと申します。宜しくお願い致します」
立川とつくしが名刺を差し出して挨拶をする。
男は、まるで道端の石ころをみるようにつくしを一瞥したのみだった。
つくしの心に大きな安堵と___本人も気が付かないような小さな寂しさが生まれる。
持参した資料を見ながら幾つかの質問が司の口から立川に投げつけられていた。
司のカーブした巻き毛がつくしの目に入ってくる。
ズキンッ
つくしの心が音を立て痛む。
必死に自分とは関係ない人間だと思って生きてきた__もがいてもがいて生きてきた。
それなのに男は、突如なんの前触れもなくつくしの前に現れたのだ。
何の会話が交わされたのかさえ良く覚えていない時間が過ぎ去った。
立川がお茶を啜りながら
「ふぅー、緊張したねーまさか道明寺社長自らがいるなんてね__それにしても、うーん流石噂の道明寺社長__いい男だったね」
立川の言葉を聞きながら
「__そうですね」
ぼぉっと相槌を打つ。
「あらっ、牧野はあまりお好みじゃない?うふふっ、雅哉君のが良いって?うふふっ」
つくしを揶揄かいながら立川がお寿司をつまんでいる。
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