イノセント 15 司つく
「出向先の部署は、どちらになりますか?」
松永の目がにこやかに微笑みながらつくしを見て
「都市開発部に入って頂く形になります」
つくしは、一つ頷いて立川に向き直った。
「先生、出向のお話。私では心許無いかもしれませんがどうぞ宜しくお願い致します」
「牧野、いいの?」
つくしは、ニッコリと微笑んで松永と立川に向けてお辞儀をした。
つくしが一生懸命作り上げてきた日常が少しずつ変わっていく
少しずつ少しずつ……でも確実に
帰りの車の中
「牧野、なんだか大役を押し付ける形になってごめんね」
「いえいえ、ガンガン吸収して立川に戻るんで場所開けといて下さいよ。それより先生__あたしがいなくてもしっかりご飯食べて下さいね」
不安を抱えながらもこの時のつくしは、まだどこか安心していた。道端の石ころなのだから、何も覚えていないのだからと。
翌日、立川の口からつくしが道明寺HDに出向する旨が伝えられた。このひと月、粗方の仕事を終え都市開発計画に従事していたつくしの引き継ぎは、あっけなく終わる。つくしは、片付いたデスクを眺めながら寂しさを募らせていた。
「牧野、飲みに行くよ」
「はーーーい」
パチンッ
__事務所の灯りが消える。
* ****
初出勤の朝___つくしは少し早目に起きて仕度をした。
いつもとは違う時間の電車に乗って、いつもとは違う雑踏の中を歩いて道明寺HDの前に立つ。
受付で名を名乗れば__ほどなくして人の良さげな笑顔を満面にたたえながら松村がつくしの前に現れた。
「牧野さん、おはようございます」
「おはようございます。本日より宜しくお願い致します」
「では、こちらへ」
松村に連れられて通されたのは、小さな会議室だった。人事部長と共に、長友と名乗る女性弁護士がやって来て、労働条件が記入された条件通知書が明示された。
「こちらに目を通して頂きサインをお願い致します」
幾つかの目が見守る中__労働条件の確認を行う。
丹念に入念に書類に目を通す。
「__あの、この入寮というのは?」
つくしの言葉に人事部長が淀みなく言葉を返してくる。
「__では、都市開発部の方は皆このような形なのでしょうか?」
「えぇ、どうしても不規則な時間帯になってしまいますのと、秘密保持の目的でこのような形を取らせて頂いております」
「__はぁっ……あっ、でも今の住まいは、こちらからも近いですので__」
つくしの言葉を制する様に
「こちらが新しい住居の住所とICカードになります。立ち会いだけ頂けましたら後の事は、全て業者の方でさせて頂きますので本日の午後にでもお願いしたいかと__」
笑顔と共に鈍く光るICカードが手渡される。たった一枚のICカードなのに……ずっしりとした重さが手に伝わってくる。
朝の日差しが窓から燦々と溢れ出しつくしの身体に光が当たる。
太陽は
光を作り
影を作りあげる。
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