イノセント 16 司つく
小さく息を吐きながら窓の外を見てコキコキと首を鳴らし背伸びをする。
サインを終えたつくしに業務に対する一通りの説明がなされ、新しい同僚が紹介された。
挨拶のあと、つくし立ち会いのもと引っ越し業務が行われる。
「__牧野さん、重複するものに関しては、如何なさいますか?」
「重複ですか?」
「えぇ、家電製品は全て備え付けになりますので、お預かりさせて頂く形で宜しいでしょうか?」
そんなやり取りの後、車に乗せられてマンションまで連れられて来られたのだ。
「牧野さん、着きましたよ」
「__あっ、あの……こ、こ、このマンションって?」
「ですから先程から申し上げている通り、こちらが社宅になりますが」
ゴクリッ
つくしの喉が上下する。見上げた先には豪奢なマンションがそびえ立っていたのだ。
「最初は、ICカードをお使い頂いて、後は指紋認証と暗証番号の登録をして頂いての解錠となりますので」
長友がにこやかに説明を続けている。
「あっ、あの__このマンション……ちょっと」
「何か足りない物でもございますか?」
「いえっ、そうじゃなくて__あのここは__社宅と言うには……」
「いえっ、こちらでとの指示を受けておりますし__それにサインも頂いておりますので」
荷物が運び終えられた後、長友が去って行く。
「ふぅっーー はぁっー」
この豪奢なマンションの中ではこの1LDKの部屋は、一番小さいのだろうが__つくしにとって身分不相応さを感じる部屋だった。
「ふぅっーー」
今日、何度目と解らない溜め息を吐きながらテラスに出た。テラスには、ハーブと季節の花々が揺れている。
ビルに囲まれたテラスは、まるで異空間のようだ。
生温い風が吹いて来てつくしの頬を撫で上げた。
「__溜め息吐いてても仕方ないかぁ……はぁっー」
夜の帳が降りて来る。
なのに__都会の夜は明るく輝いていて星が見えない。
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翌日は、顔合わせの挨拶を交わすために新和代表として雅哉が来社するのを受付まで迎え入れに行く。
よそ行きの顔をしながらつくしが迎え入れれば雅哉がクスリと笑いながら小さな声で
「つくしちゃん__久しぶり__これからお世話になります」
「__久しぶり……です」
2人でハニカミながら微笑み合う。
コンコンッ
ノックをする___扉の向こうには男が待ち受けていた。
男は、王者の佇まいで悠然と待ち構えていた。
「新和建設の新城雅哉と申します。この度は大変お世話になります」
「道明寺です。今回は宜しくお願いしますよ」
司の手が伸び雅哉と握手を交わした瞬間__雅哉の手首から腕時計が覗いた。
挨拶を終えた雅哉がつくしに振り向き、微かに2人の視線が絡み合った。
__司の眉根が寄る。
ギリッ ギリリ
大きな影が生まれる。
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