月が綺麗ですね あきつく
「真ん丸な月だな__」
〝月が綺麗ですね〟
心の中であたしは、呟いた。
月夜にキラキラと輝くあなたの髪に触れたかった。
美作さんの優しさに触れ、美作さんを愛してしまったのは、いつからだろう?
全てに蓋をして
「本当だね。真ん丸で大きくて手が届きそうだね」
精一杯、手を伸ばして月光に翳した。
「ふっ、届かないよ」
「もうちょっとしたら届きそうだよ」
あたしは飛び上がって力いっぱい手を伸ばす。
グラッと身体が倒れそうになって__美作さんがあたしをふわりと抱きすくめてくれる。
「気をつけろ。酔っぱらい」
「ふわぁーい」
スルリと美作さんの腕から飛び出る。これ以上抱き締められたら幸せをもっともっとと求めてしまいそうで。
クルッとターンした。
一つ
二つ
真ん丸お月さんの下でターンした。
「ったく、相変わらずガキだな。少しは女らしくしろ」
美作さんの大きな手があたしの頭の上をポンポンッと2度バウンドした。
__優しくて柔らかくて大きな手が。
「もぉー すぐに子供扱いする」
「じゃぁ、少しは女らしくしろ」
戯けながら……あたしは笑う。
ねぇ美作さん、あたしは楽しそうに笑えてる?
ねぇ美作さん、あたしは良い女友達を演じてる?
ねぇ美作さん……
心の中のあたしは多弁だ。沢山の沢山の言葉を紡いでるのだから。
月が綺麗ですね。
心の中で何度も何度も呟く__
何度も__
「充分、女らしいですよぉーだぁ」
前を走ってあたしは笑う。
「おい。危ないぞ」
後ろを振り返りながらあたしは、笑う
ねぇ美作さん、あたしを掴まえて
ねぇ美作さん……
黙って見ていた美作さんがあたしに声をかける。
「ほらっ、そろそろ帰るぞ」
「えぇーもう一杯飲もうよ~」
月があたしを照らす。
「明日仕事だろよ?ほらっ、行くぞ」
「ケチぃ~」
「った~く、酔っぱらい」
俺の言葉に牧野が笑う。
月夜に照らされて___顔一面に笑顔の花を咲かせて。
黒髪に、白く輝く素肌に、赤い唇に触れたい。
ブルッと頭を振る……邪な考えを追い払うために。
牧野の側に居続ける為の俺のスタンス。優しいお兄ちゃんのような男友達。
時折、心がズキンっと痛む。
だけど__お前の側に居たくて……痛む心と一緒に生きる決心をした。
お前の笑顔を見ていたくて、恋心はしまい込んだ。
月が雲に隠れて暗闇が訪れた瞬間、牧野の笑顔が見えなくなる。
「__牧野」
消えてしまわない様に慌てて牧野の名を呼べば
「美作さーん、月消えちゃったねぇ」
暢気なお前の声がする___
人の気も知らないで……暢気に欠伸を一つして空を見上げてる。
「あっ、出た」
雲が途切れて月が浮かぶ。
真ん丸お月さんが俺等2人を再び照らし出す。
「なぁ牧野」
「っん?」
「月が綺麗だね__」
思わずついて出た言葉に
「__月が綺麗ですね……」
震える唇で言葉を返して来る。
俺は__牧野を抱き締めた
扇情的な瞳に見つめられた瞬間___
俺は、全ての決意を翻し牧野に口づけを落とした。
あの日から幾年が過ぎ去ったのだろう?
月が綺麗ですね……
真ん丸お月さんを見る度に、少しハニカミながらつくしが俺に言ってくれる。
その言葉を聞く度に幾度も幾度も幸せに包まれながら
月が綺麗だね……そう答える。
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月が綺麗ですね。
I Love You を夏目漱石が和訳したもの。
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