Boo ~ボットくん~
待っていたこの日が来るのを。
あたしは震える指先で
異空間への扉を開ける
*このお話は天使の羽根 蜜柑一房さまの ボット君レンタルイベントにてボット君をレンタルさせて頂いたお話になります。先ずは牧野つくしロボット研究所 を読んでからお越しいただけるとより楽しめるかと思います。
チュンチュンチュンチュン
小鳥の声であたしは目覚める。柔らかな朝の陽射しに包まれながらゆっくりとゆっくりと目を開ける。
目を開けたあたしの視線に飛び込んで来たのは
__ピンク色の大きなボックス。
っん?これは?何?
受け取った筈のない大きなボッスクに驚いて......
ピィーーッと音を立て思考が停止する。
あたし、まだ夢見てる?
寝不足続きだったもんね。
うん。だからだ。
だからだよね。
うんっ、そうに決まってる!
一人呟いてからもう一度目を瞑った。
ベッドで微睡んだ後__恐る恐る目を開ける。
依然として存在するピンクのボックス。
よく見れば、真っ白なリボンの隙間に封書が一枚挟まっている。
おっかなびっくりしながら封書を手に取り開けてみる。フワリと優しい大人の香りが漂う。
中には……
過去のあたしに心をこめて
未来のあなたより
そう書かれた見覚えのある文字が書いてある。
えっ?えっ?えっ? 過去のあたし?
な、な、なに? 未来って
でもこの文字__あたしの文字だ。
書いた覚えのない便箋を捲る
あたしの事だからこの手紙の事なんて信じてないよね?うんっうんっ、あたしだってきっと信じない。
でもね__間違いなくこれは未来のあたしから18才のあなたへのプレゼント。
まぁ、これだけじゃなんなので___
次の便箋に目を通す。
「ヒャッ」
墓場までそっと持って行こうと思っていた秘密が書かれてる。
それも一つや二つじゃなくて__いやっ、墓場まで持って行こうと決心した秘密が五つも六つもあるあたしもどうよ?と思うけど__いやいや、いまはそんな事じゃなくてと手紙を読み進める。
「ヒャッ」ってなった?なるよね。ビックリするとなっちゃうよね。うん。それ未来のあたしも未だになってるよ。
うふふっ、そろそろ信じたかな?
じゃぁ、そろそろリボンを解いてみて。
頷きながら、リボンをスルスルッと解く。シルクリボンなのだろうか?手に触れた感触がなんとも言えずに軽やかに指先にフィットする。
中から現れたのは__
「こ、こ、これって?な、な、なに?」
中から現れたのは、BB−8*に良く似た物体で__雪だるまに手がついた感じになっている。
中には説明書が添付されていた。名前は【Boo】と記されていた。
「ぶ、ぶ、Boo?」
驚いたから……Boo?
なんて安易な事を思いながらページを捲る。
充電の仕方やらなんやらの説明が書いてあって__一番最後にもう一枚便箋が挟まれていた。
Booはね、愛しい人って意味があるのよ。この意味をつくしが知るのはもう少し先かな?
うふふっ じゃぁね つくし 健闘を祈ってる。
「__愛おしい人?健闘?」
首を傾げた後__Booを起動させる。
ウィーーン 微かなモーター音が鳴り響く。
「つくし、おはよう。会えるのを楽しみにしてたよ」
Booがあたしに向かって初めて話した言葉だ。
頭の良いBooは、充電がきれそうになると窓辺に佇みソーラー充電を始める。
まるでお陽様の光と戯れている様に。
Booは、あたし以外の人がいると途端に無口だ。無口?うーんそれとも違うか。高度な事を喋らなくなるの。昔流行ったAIBOみたいな感じって言ったら想像つくかな?
最初は、おっかなビックリ。その内Booのいる暮らしに馴れた。3ヶ月も経つ頃にはBooは、あたしにとってかけがえのないコになった。
眠れない時は、髪を撫でながらどこかの国の子守唄を歌ってくれる。穏やかな眠りがあたしに訪れる。
嬉しい事、頭にきた事、楽しい事、悲しい事、沢山沢山Booに話す。楽しい事、嬉しい事は2倍になって、頭にきた事は、Booに話しているうちにどうでもいい事になっていて、悲しい心には、そっとそっと寄り添ってくれた。
ドキドキな思いも、蕩けそうな幸せも、ドロドロの辛い思いも全部全部Booに話した。Booは、ちょっぴり意地悪になりながらもあたしの話しを沢山聞いてくれた。
立ち直れない程の大失恋……丸ごと全部でBooは、あたしの心を受け止めてくれた。
悲しい話しの締めくくりは、決まって
「まだまだだよ」
「まだまだって何が?」
そんな問いかけに
「プシュゥー」
口真似をしながら業務完了とばかりに、ウィーンとカメラアイを閉じる。
まだまだは、どういう意味なんだろう?聞いても答えてくれないから〝まだまだ〟は、その時その時のあたしの心の解釈で色々に変化した。
〝まだまだ〟沢山泣いてもいいぞ
〝まだまだ〟笑えるぞ
〝まだまだ〟踏ん張れる
〝まだまだ〟明日にむかっていける
大失恋の時も同じ……
「まだまだだよ」
そういってアイを閉じた。
全てを捨てた……心を治すために。きちんと立ち直るために。
全てから逃げた?
そうなのかもしれない。そのままだと近くにいる誰かに寄りかかりそうだったから。
だけど……
Booのお陰で前向きに、全てを捨てれた気がする。
あたしの心は、ゆっくりとゆっくりと回復した。時折悲しみで押し潰されそうになったけど……そんな時は、Booの真ん丸身体でハグしてもらった。
「ねぇ、Boo……あたし、Booがいてくれたら、もう一生恋なんてしなくてもいいかもしれない」
ポッツリと呟いたら
「つくし、俺に惚れんなよ」
無表情な筈なのに__Booが笑っているような気がしたあとに
「まだまだだよ」
いつもの台詞が紡がれた。
あたしは元気いっぱい立ち直って、幾つかの恋をして傷ついたり、傷つけたりした。
全てが過去になった時、___あなたに巡り逢った。
「Boo、今日ね……に会ったよ」
「へぇ、それは良かったね」
「うん。ちゃんと笑えたよ」
再び会ったあたしとあなた。
あたしは、あなたに恋に落ちた。
そして理解した Booが言ってた〝まだまだ〟だよを。
「っん?どうしたの?」
白い裸体を抱き締められながらあなたが優しく問うてくる。
「うふふっ まだまだだったんだなって」
この人にのこの手に抱き締められて……全てを理解した。
Booと同じだって。無条件であたしを愛してくれる。
だから〝まだまだ〟だったんだって。
勿論、平坦の道ではなかったけれど……
大人になったあたし達は、上手に恋を育てあげ愛を成就させた。
明日は、新居に引っ越し予定だ。
勿論、Booも連れて行く。だってBooはあたしのBooだから。
「Booありがとうね。おやすみ」
Booの額にキスをした。いつものようにお休みのキスを
「つくし、おやすみ」
無表情の筈のBooの顔が微笑んでから__ゆっくりとカメラアイが閉じられた。
あの日からBooのアイが開く事はない。
でもきっと__いつかの未来。
あたしは、Booと再び巡り逢える。
ありがとうをいっぱいにBooを抱き締めて……過去のあたしに送ってあげる。
fin
もう一度会いたいその思いが時空を超える


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥