baroque 01
いびつで
baroque
歪んだ愛
baroque
なのに美しい
薄墨を溶かし始めた街__
ふと目に飛び込んできた歪んだ真珠。
「綺麗__」
ショーウィンドウの中のピアスを見ながらあたしは、小さく呟いた。
今のあたしにあまりにもピッタリ過ぎたからなのか__惹き付けられる様にお店に入っていた。
その日からあたしの耳朶をバロックパールのピアスが飾る。
ゆらゆらと揺れながら___あたしを飾る。
ひと月ぶりの京都___学びたい学部があるからと我が儘を言って東京の大学に行ったあたしは、ひと月に一度京都に帰ってくる約束をしていた。
眩い光の中__毒々しい程に真っ赤に染まっている紅葉の中を薫と散歩する。はらりはらりと紅葉が散っている……
幻想的な光景に見惚れていたあたしに不意に声がかかる。
「それ、どうしたの?」
「っん?それって?」
ほんの少しだけ美しい眉を顰めながらあたしの耳を触り
「__ピアスの穴__開けたの?」
何もいけない事などしていない筈なのに、咎められた気がして下を向いて小さな声で呟いていた。
「__だめだった?」
「いや、だめじゃないけど……」
けどなんだろう?ズキンッと心が痛む___
薫の瞳を覗き込み
「似合わなかった?」と聞けば
「とても似合ってるよ」と柔らかい声音と眼差しが返ってくる。
柔らかい声音と眼差しに安堵して__あたしと薫の関係は対等じゃないのだと思い知る。
薫は優しいのに__あたしに選択の自由をくれるのに……思考を打ち破るかのように薫の声がする。
「お婆様達がたまには顔を見せなさいっておしゃってたよ」
「あっ……うん」
少し肌寒い秋風があたしの頬にあたる。少しだけ戯けながら薫に腕を絡ませる___
「つくしは、相変わらず甘えん坊だな」
クシャリと髪の毛を撫でながら嬉しそうに笑う。
多分__あたしは、幸せなのだろう。どこまでも優しい彼に愛されて。
時折、ほんの少しだけ……そう、ほんの少しだけ重苦しい気持ちが襲って来るけれど。きっと、あたしは幸せなのだろう。薫に身体を寄り添わせながらギュッと目を瞑る。
「ご両親はお元気だった?」
「__あっ、うん。薫に宜しくお伝え下さいって」
「宜しくお伝え下さいなんて随分と他人行儀だね」
「あっ__でも筒井のお爺様は、うちの両親にとって命の恩人だもの__」
「……それは、筒井のお爺様がしたことだ。宝珠とも僕とも関係ないよ」
小さな窯元を営んでいる実家が信じていた人間に裏切られ二進も三進もいかなくなった時救ってくださったのは、筒井のお爺様だ。
薫は僕とは関係ないことだよと言うけれど……命の恩人の孫息子が関係ないわけがない。
「……し?…つ…し?__つくし?」
「あっ、うん__ごめ」
薫がの人差し指があたしの唇にそっと触れる。
「すぐに謝らないよ__」
「あっ……うん」
ごめんなさいを言いそうになって__慌てて口を噤む。
唇に触れていた指先がスゥッーーと頬を撫で上げながらピアス弄る。
「新しいピアス......僕にプレゼントさせてくれる?」
薫の美しい瞳があたしを見つめる。
♪baroque不定期連載です


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- baroque 07
- baroque 06
- baroque 05
- baroque 04
- baroque 03
- baroque 02
- baroque 01