baroque 03
ズルくて
unfair
滑稽なのが
unfair
愛なのかもしれない
筒井のお爺様に連れられて__つくしに初めて出会った日を僕は忘れない。ドタドタと階段の音がして威勢良く顔を出した少女の事を。彼女は生命力に満ち溢れていた。
「そん子誰?」
零れそうな大きな瞳を真ん丸にして聞いてきた。その後__いっぱいの背伸びをして空を何度も何度も掴もうとしていた。一生懸命に何度も何度も……
元気いっぱいのつくしをとても可愛いと思った。愛玩動物?うん。そんな感じだった。疎遠にしていた筒井の屋敷に出入りするようになったのも__萩に連れて行って欲しいからだったんだと今になると思う。
つくしを可愛がっていた雪乃お婆様は、つくしの中学入学を機に筒井の屋敷に引き取りたいと駄々を捏ねた。自分の要望など普段は噫にも出さない女性だったのにも関わらずにだ__雪乃お婆様はこうと決めた事には梃子でも動かない人だったから__お爺様が根負けされてつくしのご両親に懇願した。
命の恩人だと崇める祖父の頼み事を断るわけもなく……つくしは、かつて母が卒業した学園に筒井の家から通う事になった。
あの頃まだ僕の中のつくしは、無邪気なだけの少女だった。
少女だったつくしに会いに___時間が空けば日本に筒井の家に戻って来ていた。少しずつ大人に変わる少女に恋をしていると気が付いたのは、つくしが筒井の庇護下を離れ東京の大学に通いたいと言い出した時だったんだ。
自由に飛び立っていってしまう__そう感じた瞬間……つくしを自分のものにしたいと強く願った。
ズルイ__
つくしの憧れを利用した。そう……恋に恋する気持ちを利用したんだ。
怖かった__
新しい世界を見たつくしが他の男を選ぶ事が。
当たり前の権利の様に__
つくしの翼を捥いだ。
どこかで掛け違えてしまったボタンは、永遠に掛け違いのままだと気が付いているのに__つくしが僕の元を離れていきそうで……怖くて正せないでいる。
雁字搦めの愛でつくしを縛り続けている。
真っ赤に色づく紅葉の下でバロックパールが揺れた瞬間__つまらぬ嫉妬が擡げた。
つくしの耳朶を弄り柔らかく問うた。何故断りもなくピアスホールを開けたのかを。僕は真綿に包んでつくしに問うた。
つくしの肩先がピクンッと小さく震え、ダメだったの?小さく呟いた。ダメだったと言えるわけもなく言葉を濁した。
「似合わなかった?」
つくしの大きな瞳が心配げに揺れた__
いつからだろう?
真っ直ぐにキラキラと輝いていた彼女の瞳が曇るようになったのは。
いつからだろう?
戯けながら僕に媚を売る様になったのは
全て見えない感じない振りをして
「つくしは、相変わらず甘えん坊だな」
クシャリと髪の毛を撫でてから、つくしの両親の事を話題にのせていた。
物わかりのいい振りをしながら優し気な笑顔を見せながら
__つくしの気持ちを雁字搦めに縛り付ける。
僕はズルイ
♪baroque不定期連載です


ありがとうございます♪
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