No.003 カサコソ音がする 類つく
大きな声であんたが俺を呼ぶ。
はち切れそうな笑顔で近づいて来る
零れ出しそうになるこの想い__心の中に押し込める。
「ねっ、ねっ、見た?木瓜の花?」
「うんっ?」
「ほらっ、五月商店の横からグッと入った所にあったじゃん」
「うーん、この頃あの辺は散歩してないかな」
「えっ、そうなんだー」
あの辺りを散歩してたのは、牧野あんたに会う為だよ。
今、五月商店でバイトしてないでしょ?
「あぁ」
ふ~~ん なんて言いながら横を歩く。
カサコソカサコソ……枯れ葉の音を響かせながらあんたが歩いてる。胸の中がキュンッとなる程にあんたが愛おしい。
「昔ね、落ち葉を沢山沢山集めて焼き芋を作ったんだよ」
思い出話を時折俺に聞かせてくれる。
小ちゃな頃の牧野を思い浮かべると何だかとっても幸せな気分になる。
ホッペを赤くし目をキラキラさせながら赤い焚き火を見つめていたんだろうね。
「あれっ?類なんか笑ってない?」
「うううん。笑ってないよ」
「焼き芋口いっぱい頬張って、咳き込んでるあたしとか想像してない?」
その様を頭の中で思い浮かべる。
ホッペをプクッ~と膨らませてゲホゲホ言いながらも必死で飲み込もうとしてる姿。
「ぷっ」
「ほらあー もう想像禁止!」
俺の顔を見上げながら、もぉ全くとか、あぁーとかブツブツ一頻り言ったあと……クルリとスカートを翻して
「ホクホクで美味しいんだよ~」
そう言ってニッコリ笑う。
なんて事ない会話で、有益な事も未来につながる事も何もない会話だ。
それでも……あんたと交わす会話はいつでもキラキラと輝いている。俺の知らない小さなあんたが俺の中で息づいて動き出している。俺の心の中じゃ小さな俺が、あんたに出会って遊んでるよケラケラと笑いながらね。
落ち葉をカサコソ踏みしめながら……
「落ち葉をねいっぱーい集めてお布団みたいにして転がった事もあるよ。すっごい楽しいんだよ」
「へぇー、焚き火は条例違反だけど落ち葉の布団は、庭で出来そうだね」
そう言った瞬間の牧野の顔……大きな瞳を真ん丸にして
「えっ?ホント?ホント?やりたいやりたい」
そう言って俺の家まで付いてきた。
まぁ、でも庭師が掃除したあとで綺麗に庭はなっていて__
「チェッ 残念」
心底残念そうな顔をする。
「じゃあさ、明日も来ればいいよ」
「うんっ」
その日から、牧野の落ち葉観察が始まった。うーん。まだまだとか。おっ、今日はいい感じにたまって来たねとか。
俺が居ない時にも何度か来てて……いつの間にか牧野は花沢でバイトしてた。
メイド服着て
「類様、お帰りなさいませ」
なんて言われた時には__ここはメイド喫茶?
それともイメクラ?なんてドキドキして、
「た、た、ただいま」
シドロモドロしていたら後ろで加代がクスクス笑ってた。
「なんでバイト?」
「あっ、臨時よ臨時。三橋さんおめでたなんだって。まだわかったばかりなんだけど」
牧野の言う三橋さんが誰なのか?ちっとも解らないけど……いま俺の頭の中もかなりおめでたい。
そうか落ち葉……夜中こっそり捨てなくてもいいのかなんて思いと共にね。
次の日__
天晴れ秋晴れで落ち葉の中で二人してゴロゴロした。ゴロゴロしてるうちに身体が密着して
小ちゃく
「好きだ」
って__知らない内に零れてた。
「気に入った?ゴロゴロ落ち葉」
牧野がニッコリと笑って嬉しそうに言っていた。
「うん。楽しいね」
翌年から秋になると二人で落ち葉の中をゴロゴロする。
大の大人が落ち葉の中で、のんびりのんびりゴロゴロと。
「パパ~、ママ~ ゴロゴロ楽しいよ」
今じゃ子供達が受け継いでいる。
カサコソ カサコソ 音がする
落ち葉を踏みしめる音がする。
あんたと紡ぐ幸せな日常
小ちゃな幸せを集めれば大きな愛につながってるね


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