No.007 縁は異なもの味なもの 司つく
信じられねぇ
マジ、信じられねぇ……
この女ばっかりは予想の範疇を超えやがる。
予想の範疇?
あぁ、勿論突拍子もないことまで想定してる。
だけど、だけど
それさえも超えやがる。
「牧野、お前よぉ」
溜め息と共にそんな言葉が口の端から一緒に出れば
「うんっ?」
キョトンとした顔してやがる。
ったく、なんだその顔?
世辞にも美人じゃねぇなーなんて思うのにドキンッと胸が高鳴りやがる。
「はいっ。ちゃんと並んで並んで。ちょうお得なんだからしっかり並ぶ」
「……あぁ」
あんまりにも可愛い顔しながら言うもんだから__やっぱり逆らえねぇで列に並ぶ。
チラッ チラッ と周りの視線が俺を見る。
視線には慣れっこだ。
でもなぁーーーー今回のこの視線は頂けない。全くもって頂けない。
なぁー そう声をかけようとした瞬間……ドアが開き一斉に人が走り出す。
「道明寺!頑張れ」
「オォッー」
闘争心に火が点いて……思わず走りだしていた。
しかもぶっちぎりの一位狙って。
なのに、目の前の女に負けちまった。
その女、ニヤリと笑って
「フッ、あんたも中々やるねぇ」
そんな事を言って去って行った。
負けた感いっぱいの俺__折角早く着いたのに次々と抜かされて行く。
「はぁっ、はぁっ……」
息急き切ってようやっとやって来た牧野に
「あぁ、ダメじゃん。最後まで気抜いちゃだめでしょ」
我に返って並んだ時には____時既に遅しで、牧野の手にのみ戦利品。
「もぉ、ホント役立たず。ったくもうね。はぁぁっーまさかの結果だよ」
ヒュルリ__冷たい風が吹く。
「ら、ら、来月はリベンジだ」
で、やってきました。リベンジに。周りを見回せば、居た居たあの女。ゼッテェー負けられねぇ。
しかもだ、今回は先着3名様までは超お得だと牧野が言っていた。
コキコキと首を回して屈伸をする。
ヨシッ 気合い十分
チラリとこっちを見た女と目があった。あの女今日も不敵に笑ってやがる。
音楽と共に店員が自動ドアを開ける。一斉に駆け出す。
「はぁ、はぁっー」
遂に遂に掴んだ栄光。甘美な思いに囚われる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ちゃんと並ばないと」
はっと我に返った時には__既に先着3名様分はなかった。
前回と違って通常お得商品は入手する事が出来たから、牧野に文句こそ言われずに済んだが
またしても負け感満載で__翌月にリベンジ…….は叶わなかった。
牧野が引っ越しをして、あの店が遠くになっちまったから。
「電車代使って買いに行ったら本末転倒でしょ?」
あぁと納得したが、それを言うなら俺の時間を使って卵1P10円を狙うのは__どうなんだ?とは返せなかった。
牧野の作ってくれた卵焼き食いながらそんな昔の事に思いを馳せた昼下がり。
午後からは難攻不落の徳丸技研と交渉だ。
「ヨシッ」
気合いを入れて牧野と二人相手の陣地に乗り込めば__
「おっ、お兄ちゃん!」
「へっ?」
素っ頓狂な声を出して、牧野に腹の脇を抓られる。
イテッ
「久しぶりやん」
交渉相手の社長秘書は……社長の愛妻でもってあの時の女。
目を見合わせて笑い合って__交渉はすこぶる上手くいった。
くくくっ
縁は異なもの味なもの
どこにどんな出会いが待ってるかなんて誰にもわかんねぇな。
くくくっ
全ての出会いは偶然じゃなくて必然?


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