baroque 06
甘美で
secret
いけない
secret
恋のはじまり
一頻り笑ったはずなのに……目の前の男かが笑うたび、つくしもクスクスと笑いだす。
二人でどれくらい笑ったのだろう?
二人でどれくらい見つめあったのだろう?
さして会話もしないのに……
見つめ合い、笑い合う。
それはまるで仲睦まじい恋人同士のように。
「お前、スゲェ笑い上戸だな」
「そんなことないっちゃ、うんと……」
「総二郎、総でいいよ」
「あたしは、つくし。牧野つくし」
「つくしって、春のつくしか?」
「そうっちゃ 」
楽しい時間から引き戻されるかのようにつくしのスマホが鳴り響いた。
ディスプレイをちらりと覗き
「あっごめん、あたし帰らなきゃ」
「あっ、ちょっと待って__」
総二郎は、つくしのスマホを取り上げ自分宛にワンコールした。
「今度ちゃんと礼させて欲しいからさ」
つくし、総二郎の素早い行動に目を瞬かせスマホを受け取る。
「あっ、うん」
呆気にとられながら暁屋の紙袋を持ち店を出ていった。
つくしの後ろ姿を見送りながら......
「ぷぷっ、あいつ___なんかおもしれぇ奴だな」
温かくなった心でそう呟いてた。
店を出たつくしは、片倉に慌ててコールバックする。程無くして迎えの車がつくしの前に着く。
「いかがなさいましたか?」
片倉に心配そうにそう聞かれ
「ベルグに行く途中で学校の友人とばったり出くわしてお茶をしようって......ついついお話が弾んでしまったの’」
「左様でございましたか。不手際で警備の者がついておりませんでしたので、急かしてしまったようで大変申し訳ございませんでした」
つくしは首を振りながら言葉を繋げた。
「いいえ……ごめんなさい。あたしがきちんと連絡入れてれば良かったのに。あの片倉さん......薫から連絡は?」
「大丈夫でございますのでご安心下さいませ」
コクンと頷くつくしの顔には、ホッと安堵の表情が浮かんだ。……つくしの暁屋を出てからの行動を薫が知れば巻き込んだ相手は勿論のこと頬を叩いた女性とて……どんな制裁が加えられないとは限らない。いや、それだけではなかった___つくしは、屈託なく笑い合えた時間が至福の時間だと感じていたのだ。もしかしたら、その時間を想いを汚されたくなかったのが一番だったのかもしれない。
車窓を眺めれば京都の街が目に入る。歴史と文化の街……つくしにとって萩と同じように大好きな街だ。なのに、この街はほんの少し窮屈さを感じさせる。窮屈な思いから逃げ出したいと願い東京の大学に進学して一年半だ。つくしに残された自由な時間は、限られている。誰に言われた訳でもないのに……つくしは、それを受け入れている。
「……しさま、つくし様、お着きになりました」
片倉に声を掛けられ我に返る。
「お疲れになられましたでしょ。今日はごゆっくりとお休みくださいませ」
「片岡さんありがとう。心配かけちゃってごめんなさい」
「いえいえ、お休みなさいませ」
「お休みなさい」
片倉と別れ直通エレベーターに乗り込み部屋に入る。薫と二人で暮らすペイントハウスに。
チーン
エレベーターが開けば色とりどりの花々がつくしを出迎えてくれる。
買い物袋を机に置きコートを脱いだ。
小さな秘密が
この夜__生まれた。
♪baroque不定期連載です


ありがとうございます♪
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