baroque 09
愛されて
calm
包まれて
calm
過ぎる筈だった
ゆっくりとゆっくりと目を覚ます。起きたつくしの目に入って来たのは、裸体で眠る薫の姿で……ドギマギと赤くなった後。ベッドをそっと抜け出して、シャワーを浴びに行く。身支度を整えてから朝食の準備にとりかかった。
「うぅーーん……つくし、おはよ」
大きな欠伸をしながら薫がキッチンにやってくる。
「おはよ。まだ早くない?もう少し寝てていいよ」
「つくしが居る間はずっとつくしを見てたいから、早起きするって決めてる」
愛の言葉を耳許で囁かれ優しい瞳に見つめられれば、条件反射のようにつくしが頬を赤らめる。
「つくし、隙有り」
デコピン一つ降って来る。
「痛っ、もう薫の意地悪」
薫がギュッとつくしを抱き締めて
「あんまり可愛いからついつい虐めたくなる。つくしが悪いんだからね」
「薫__恥ずかしくない?」
真っ赤になってつくしが言えば
「ちょっとだけ恥ずかしい……」
薫も耳を赤くする。
愛と幸せに満ちた朝の風景が目の前に広がっている。
つくしの用意した食事をとりながら薫が昨日の事を聞いて来る。
「暁屋の女将は、元気だった?」
「うん。薫はんどないしはったって?聞いてたよ」
「僕が行くとつくしはんどないはりましたって?聞いて来るよ__二人で一つとか思ってるのかな」
二人で女将の顔を思い浮かべクスクスと笑い合う。
「ベルグのケーキは何買ってきたの?あの時間だと色々売り切れてなかった?」
「あっ……それがね……ベルグには行かなかったの」
「っん?何かあったの?」
「あっ、あのね……お友達と偶然会って少しお茶をしたの……だから」
「へぇー女学院の時の友達?」
「あっ……あのね、英徳の子に偶然あったの」
「へぇーそれは奇遇だったね。その子もコッチが実家なの?」
「親戚の所に来たみたいな事言ってた……かな」
「そうなんだ。あっ、まさか男じゃないよね?」
ゴクッ つくしの喉が鳴る。
「ふっ、ゴメン、ゴメン__嫉妬心剥き出しにしてる質問だったよね」
つくしは、お茶を淹れながら曖昧に微笑む。同時に昨晩の出来事を思い出していた。荷物を交換する為とは言え夜遅くに外出した事、何時間も外で話し込んだ事。
__もしもバレたら?
心臓がドキンッと痛くなった。
「……つくし、呆れた?」
つくしはブルブルと首を振り
「ううん。呆れてなんかいないよ。__でも、あたしモテないから薫が心配する様な事なんて何もないよ。……それよりそろそろい行かないとお爺様達がヤキモキなさるかも」
心の動揺を隠し態と明るく振る舞った。
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筒井の邸に着けば、今か今かと待ちわびていた雪乃と亜矢に手を取られ広間に連れて行かれる。目の前には、色とりどりの着物が衣桁に掛けられている。
「これは?」
「お誕生日会用の衣装よ」
「こんなに沢山ですか?」
「お着物は何枚持ってもいいのよ」
「でも__こんなに沢山」
「あらっ、筒井の家の者が着た切り雀じゃ笑われてよ」
筒井の家の者……この言葉を聞くたび……柵で縛られている窮屈さを感じて胸が苦しくなる。
「つくし、お婆様方は何かにかこつけて可愛いつくしを着飾りたくて仕方ないんだよ。少し付き合ってあげて」
いつの間にか部屋に入って来ていた薫がそう言って微笑む。
「あらっいやだ、薫が一番つくしちゃんを着飾らせたい張本人の癖して。ねぇ、雪乃ちゃん」
「えぇ本当よね。亜矢ちゃん」
「ぷっ、じゃぁ僕の為にもお婆様に付き合ってあげてよ」
温かな笑いに包まれながら、穏やかな時が過ぎて行く。つくしは、目の前の光景を良くできたホームドラマのようだと思いながら眺める。
ただただぼんやりと……


ありがとうございます♪
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