baroque 10
自分の思いを
sin
素直に貫くことが
sin
許されないこともある
時折つくしは、何故ここに自分がいるのかがわからなくなる。
大切にされ愛されているの充分に理解している。
でも
……それが何故自分なのか?
時折わからなくなって途方にくれるのだ。
他人から見れば幸運な人生なのかもしれない。身分不相応なほどの贅を尽くされ愛されているのだから。
でも
___つくしの中には、この家に来た日からずっと違和感がつきまとっている。
拭いきれない違和感の一番の原因は、【牧野つくし】ではなく【筒井つくし】として女学校に通ったことかもしれない。
ゆくゆくは 筒井家の養女になるのだから、【牧野つくし】としてではなく【筒井つくし】として女学校に通って欲しいと雪乃に頼まれた時の衝撃は、7年半経っても忘れることが出来ないでいる。
ただ単に下宿先として筒井にお世話になるだけだと思って萩を出て来た。それなのに__蓋を開けてみれば、本人の預かり知らぬところで色々な話しが決まっていたのだ……子供心に、いや子供だからこモヤモヤとしたやり切れない思いを抱えて過ごした。
京都の女学園に通うと決めたのは自分自身だった筈なのに
父母に捨てられた___そう感じる程の衝撃だった。
何度もママに聞かれた
「ホンに京都に行きたいん?」
「そうっちゃ。白泉女学園の制服を着るんがあたしの夢っちゃ」
そう答える度にママが少し寂しそうに微笑んでいたのに__そんな事も忘れて忠誠を誓う証として捧げ物になったと感じた。
大学自体は門戸を広げているので偏差値の高い名門女子大として名を知られているが……白泉女学園は幼稚舎からある生粋のお嬢様学校だった。中学高校の外部生として入学する子供も十分に上流階級に属する家の子で占められていた。高額な授業料と共に莫大な金額の寄付金と紹介者が必要になるような学校だったのだから。
学園の中に、誰それはどこの出身でなんて言う事を気にする子は居なかった。そもそもがこの学園に入学する子達は選ばれし子女だったから。程度の差はあれ気にする事などないのだ。それに__下手に苛めなどして退学にでもなろううものならば将来の自分にどんな影響が出るとは限らない。いや、自分だけではなく家族や親戚にまでどんな影響が出るとは限らないのだから。
その代わり、白泉女学園を出たと言うだけで結婚相手に不自由することはないだろう。現に関西の上流階級の奥様方に白泉の出身者は多いのだ。特に代々継ぐ稼業の娘は殆どが白泉の出身だ。
名前の事さえ除けば、楽しい学園生活を送った。人を惹き付ける力を持つつくしは、外部学生としては異例中の異例で生徒会長を努めるほどに学園の中で親しまれ愛されてきたのだから。学園の中には皆に愛されいつでも笑っているつくしが居た。
でも
___それはいつも自分じゃない自分だという思いに囚われていた。
筒井の邸に居る時も同様だった。
萩の言葉や話しが出ると微かに雪乃の顔が翳るのに気が付いてから筒井の邸でつくしは、誰に言われたわけでもないのに方言を封じた。萩の話しを封じた。
哀しい心を救ってくれたのが時折訪れてくれる薫だった。
つくしにとって薫は、一筋の光明で唯一萩のことを一緒に話せる相手だった。
仔犬のように薫を慕い、
そしていつしか
恋い焦がれていた。
薫に好きだと告げられた日は天に昇るほど幸せな気分だった。
初めてのキス
初めての夜
全てが幸せだった。
いつからだろう……
つくしが薫の真っ直ぐな愛をほんの少し窮屈に感じ始めたのは?
愛している……なのに
自由な自分になりたい
願って
願って
願ってしまったのは。
きっと罪なのだろう。
だからつくしは、ひた隠しにする。
薫の愛を窮屈に感じる自分の心を___


ありがとうございます♪
- 関連記事
-
- baroque 13
- baroque 12
- baroque 11
- baroque 10
- baroque 09
- baroque 08R
- baroque 07