No.031 初恋の君 by悠香さま
初めての恋と
終わりの恋と
どっちが胸を焦がすのだろう?
アタシは今日で、牧野つくしとお別れをする。
過去に決別する、宣戦布告の意味も込めての
此れから話す事。
明日からは素敵な思い出になると信じてるから。
牧野つくしとしての最後の懺悔を告白したいの。
もう何年前の事だろうか?
懐かしいつう言葉の方が似合うかな?
今も思い出す、英徳学園高等部での出会い。
非常階段で、ビー玉の王子様と出会った。
太陽の雫に照らされた王子様に、未だ幼かったアタシは『きっと運命の出会いなんだ』と信じて止まなかった。
ときたまバイオリンを奏でる、その音が心地良くてアタシも気付かないうちに此処へ通うようになってた。
彼の前髪を掻き上げて、魔法に掛かったみたいに動けなくなった時。
王子様はアタシの頬にキスをしてきた。
そのキスが永遠の誓いになれば、良かったのかなとふと思い出す事があるんだ。
ある日の非常階段で、知らないうちにアタシは王子様こと花沢類と顔を付けるように眠っていた。
奇しくもその日ばかりは、アタシの方が早く意識を覚醒させたの。
余りの恥ずかしさに勢いで危うく頭突きをするとこで、そうなったらきっとアタシは赤札では済まなかったなと思ったの。
「眠い・・・」
言霊すらでも引き込まれる。
「ごめんね」
目も当てられない位に、女のアタシが言うのも何だけど綺麗だなって。
「そう?王子様とかって、人は何を基準に決めるんだろうな」
王子様って、アタシが思っていた事バレたのかな。
後輩の桜子に言わせれば、断然道明寺の方がカッコイイとか決めつけてるけど。
アタシは断然、花沢類と思うのよね。
タイプだなって。
それを今も言うから、当時から毎回アイツとはトラブルになってた。
本当のところはアンタが偶々タイプじゃなかっただけって言いたかったのよね、だけど当時は体と心がバラバラな自分がいたの。
初恋が王子様だったのに、告白されたのはまさかのオレ様。
制服の奥が悲鳴を上げて、助けてと何度も繰り返したあの頃。
初恋の王子様、でも王子様には別に初恋の女性がいた。
私ですら憧れていた、全てを兼ね備えていた藤堂静さん。
王子様は彼女を諦め切れずに、渡仏した。
彼女を追い掛けないのと。
言い出したのは、アタシなんだけどね。
でも自分に振り向いて欲しいとも心の何処かにあったの。
何て自分勝手な女だったんだろうな。
けれど自分で言うのも何だけど、あのパワーは何処にあったのかと。
今思うと、あれが眠っていた類の本性を解放した事だったんだよね。
それからの日々は、非常階段で密やかな楽しみが出来た。
勉強もしたし、カフェテリアに向かう合間で何の他愛ない話をしたり。
類は意外にもお笑いが好きで、アタシが知らないような芸人のネタ等の話もしてくれんだよね。
寧ろバイトする事に忙しいアタシを、何時もき
ラーメン屋にも行った時には、物珍しいようにキョトンとしていた。
映画鑑賞にも造詣深くて、解説してくれたり彼女になったように気持ちが高騰した事もあったんだよね。
本当にあの頃気付いていたら、アタシは傷付けていた事を分かったかもしれないのに。
他の事に手一杯で、類や司を思いやる余裕すらなかった。
家族や親友の生活を脅かされたりと、死ぬ程恐ろしい出来事に巻き込まれてそれは海の向こうからの刺客だったり。
いや、試練というべきだったかな。
其処からは更に苦難の連続で。
道明寺・・・いや司が記憶を失った時、アタシの事だけを忘れてしまった事があったんだ。
その少し前から、アタシは司とのイザコザが何時も以上に絶えなくて正直もう無理かなと。
「お前はオレの何処を見てたんだ」
此の言葉を告げられた時、もう自分の心が限界って思ってしまったんだ。
それから間もなくだった、司は港で刺されてしまった。
アタシは天罰を受けたんだと、今ならばそう思うのね。
類にも司にも、何て事をしてしまったのかなと。
其れを機に、ずっと連絡すら取らなくなり司は
NYに行ってしまった。
再会した時、アタシの心は戸惑いながらも決心した筈なのに。
なのに今度は類から、アタシに告げられた言葉は頭を強打された感じを受けたの。
「牧野は俺を隠れ蓑にしたいだけだよ」
「そんなつもりは無いのに」
「いい加減素直にならないと、今度こそ後悔する。牧野は妹みたいなもんだし」
アイツが記憶を失ってしまった、あのショックな出来事。
「アタシの傍には何時も類が居たから」
「其れを隠れ蓑って言うんだよ」
儚げな容姿なようで、実はF4一の強かさを兼ね備えている類。
司はその逆にオレ様で自意識過剰で非情な奴と思ってたら、実は繊細さと寂しさは人一倍なんだと初めて分かったの。
ずっと一緒にいたのに、何も見えてなかった自分がそれはそれは嫌になってしまって。
類は自分の一部ではあると思ってたんだけど、肝心な部分で全く見えてなかった高校生の時のアタシ。
先日独身最後の女子会での事だった。
T3メンバーからも散々言われた。
「つくしはどうしたいの?」
「先輩は贅沢過ぎます」
「つくしが二人いたら一番良かったのにね」
何気に一番キツイ発言をしたのは、意外にも小学校から大親友の優紀だったんだな。
「それはないよお、優紀アンタ言うときは言うよねえ」
「そりゃあ、あの西門さんを落とした人ですから」
「桜子、アンタはどっちの味方?」
「どちらでもありませんわ。只、滋さんやあたくしは振られましたもの。こんな美人をふるなんて」
「つくし、アタシは過去を穿り返して騒ぐつもりはないよ。でもね、司もつくしも後悔するような結末にはなってほしくない」
この時の滋さんには、どれほど感謝してもし尽くせない位だった。
優紀なんか逆にF4の中でも更に難攻不落な、西門総二郎と結婚近し迄としてるから逆に恐れ入ったもんよ。
「つくし、人生は一度きりだよ。私もねつくしに会ってから、自分が強くなれたんだから。それに私には、勿体無い人を会わせて
くれるきっかけを作ってくれたよね。だからさ、今度は私から言わせて貰う。素直な自分を出してよ」
アタシは一人じゃないって事も、教えてくれた、最高の親友と友達。
嬉しくて泣いてしまったんだ。
英徳学園に通って、この時は本当に良かったって。
そう思えたんだな、良い思い出なかったのにさ。
赤札貼られて全校生徒を敵に回して、男子生徒には強姦紛いも受けたのよね。
普通の学生だったら、人に依っては命落としたかも。
雑草魂、雑草は踏まれて踏まれて根っこが強ければ負けないんだ。
まあ草むしりは、正直好きではないけどね。
何でか毎回手が血だらけになるんだよ。
それは置いといて。
女子会から数日後、アタシは何を思ったか母校の工程を走り回った。
汗だくになりながら、無性に青春を感じたかったのかもしれない。
TOJとかちょっと違う異世界もたいけんしたけどね。
その姿を見ていた花沢類が、やっぱりキラキラしていたんだ。
「青春してるな牧野」
「アタシも雑草何とかの前に高校生だったもん・・・ちょっとイメージしてたのとは違ったものだったけど」
「イメージ?」
「夕日の中を走りながら、汗を描いて」
「それって何時の話?」
「そうだよね、何でもない」
あーやっぱり、好きだったんだって思う。
「校庭と非常階段に、アタシを置いてくの」
「牧野は野宿するって事?」
変なとこで、話の腰を折るよね類って・・・。
「牧野つくしとしての、想いを此処に置いて行くの・・・次に此処へ来るときに牧野つくしはもう居ないから」
近くに転がっていたバスケットボールを手に取った類が、少し離れたゴールへ弧を描くように投げた。
鮮やかなアーチのように、美しい曲線だった。
「スリーポイントだね」
「此れが投げ収め」
「そっかあ」
「牧野・・・」
「何?」
フワリと類の気配がアタシを抱きしめて。
「幸せを・・・祈ってる」
「アタシも忘れないよ・・・今日此処の場所を離れる迄は」
アタシの初恋は、終わりを告げた。
自分のアパートに帰ったら、建物には似つかわしくはないアイツがいた。
青筋立ててたけど。
「お前まだキョトキョトしてんの?」
しょうがないなあ・・と思いつつも取り敢えず中に入れたんだけど。
「お別れしてたんだ。今日までのアタシと」
「類もいたんじゃねーの?」
ホントに類の事が絡むと、拗ねるんだよねえ。
毎度毎度だけど、アタシも仕方ないかな。
訝しそうに眺めてるアタシの大切な宝物。
「アタシを幸せにしてくれるんでしょ。アンタを幸せに出来るのはアタシだけ。自惚れかな」
その言葉を聞いた時の司は、世界中の女性を虜にする程の素敵な笑顔で。
「あたりめーだ。オレ様が惚れた只一人の女だ」
「アタシの愛しい人だもの」
愛してるって・・・互いに何度も呟いたその夜。
あ、又眠ってしまってたんだ。
「つくし様?大丈夫ですか」
結婚式の衣装に着替えてる最中に眠ってるって、どんだけなのかしら。
この衣装を纏った瞬間から、新しい自分と対面するんだね。
バイバイ・・・昨日までの牧野つくし。
はじめまして・・道明寺つくし。
あたらしい自分が始まる


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