No.008 雨の日に... 類つく
少女がただただ泣いていた。
雨に打たれて泣いていた。
なんで泣いてるの?
___そんなことが気になってずっと見てた。
どれくらいの時間、少女を見ていたのだろう?
ほんの少しの時間だったのかもしれないし、
長い長い時間だったのかもしれない。
声を掛けたい。そう思った瞬間
少女は、天に向かってニッコリ笑った。
雷に打たれたように俺の中に衝撃が走った。
はっと我に返った時には
涙と笑顔____を残して少女は去って行った。
あの日から時折、あの子に会えるんじゃないかと思って桜並木の下をブラブラブラブラ歩く。
「おっ、類、お前なにこんなとこでふらついてんだ?」
「んな事してねぇでクラブにでも繰り出そうぜ」
片手をあげて構うなの合図をして桜並木をブラブラ歩く。
あの日見ただけの少女が俺の中に住み着いて……
いつの間にか大きく大きく大きくなっていた。
あの後__一度も少女に会えなくて……学生生活を終え桜並木に行くこともなくなっていた。
雨の日になると少女の涙と笑顔を思い出しもう一度会いたいなぁ……そんな思いを呼び起こす。
頭の中が腐りそうな退屈な退屈な毎日が過ぎて行く。
「次は、花沢専務からのご挨拶です」
ぎっくり腰で親父が病欠で代わりにお鉢が回って来た。
面倒なことこの上ない。
心の中は、ボンヤリとしながら顔だけは、キリリと壇上に向かった。
つまらない訓示を垂れながらいつものように終える筈だった。
その瞬間___見つけた
小さく欠伸を噛み殺した彼女を。
ジィッーーーっと彼女を見れば__
ハッとした顔をしてキョロキョロと辺りを見回してから…
唇が〝ヤバッ〟と動いた。
クククッ 俄然人生に色がつく。
「___最後に皆さん、人生は楽しいものです。仕事を恋をどうか謳歌して下さい」
真面目な顔をしてそう締めくくった。
割れんばかりの拍手が会場に響いた。
見つけた彼女の名は__営業に配属予定の〝牧野〟
「まきの、マキノ、MAKINO、牧野」
違和感なく呼べるように色んな呼び方で呼んでみた。
「やっぱり、漢字の牧野……かな?」
クククッ そんな小さな事が楽しくなる。
その前に____
「田村、これお願いしてもいいかな?」
「類様__これは……ちょっと」
「うーーーん じゃぁ仕方ないな。こっちお願いするよ。あっそっちもダメだったら最初の案の方通してもらうから。宜しく頼むね」
「__はぁっ……」
さて、もう一度練習しなきゃいけないかな?
「牧野、牧野、牧野。うん。大分良くなって来たかな」
トントントンッ
ノックの音と共に____
「失礼致します」
どこか不服気な顔の彼女がやって来る。
速攻で作らせた新しい名刺と部署が書かれた社員証と秘書課の社員バッジを机に置いて
「牧野、あんた今日から俺の専属だから宜しくね」
そう言い放つ。
「せ、せ、専務__そ、そ、それはどう言う事でしょうか?」
「っん? 欠伸してたでしょ?」
「っうっ……で、で、でも、あたし、あっ、私の第一希望が営業でして……」
「欠伸してたでしょ?そんな新入社員あんただけだったしさぁ、だから俺の所で再教育」
「うっ”」
クククッ 毎日が面白くてたまらない。
全部全部一緒に同行させて____
仕事も恋も花沢に埋めさせた。
♪♪♪
桜の季節___雨が降る。
「ねぇ、つくし__なんでココで泣いてたの?」
「うんっ?いつの話し?」
「今から15年くらい前になるかな?真っ白なワンピース着てた」
瞳が上をみて、首を傾げたあとに手を叩いて
「うーーーん__あっ__あぁあの日かなぁー?」
突如降って来た雨、トボトボ歩いてたら車にバシャンと水を掛けられて、持ってた肉まんまで水浸しになって___
雨は寒いは、お腹は空いたはで呆然としていたらしい。
泣いて見えたのは、雨のせいで___
笑ったのは、夕ご飯のおかずを思い出したからだった。
あははっ
恋って
恋って
錯覚から成り立ってたんだ。
クククッ
だから人生は楽しい。
君のことを思えば笑えるそんな恋をしよう


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