No.012 真夏の夜の夢 司つく

真夏の夜＿＿＿
痩せっぽっちで小っこい犬っころが虐められていた。

「止めろ」
車を降りて思わずその犬を助けてた。


犬は嫌いだ。
なのに......なんでか不憫になっちまってついつい＿＿助けちまった。

踵を返しそのまま車に戻るつもりだった。


『オィ　オィ』
っん？誰かに呼ばれた気がして後ろを振り返る。
誰もいねぇ。

さっきの小っこい犬っころが一匹　
　クゥ～ンと鳴いてるだけだ。


プルプルッと首を振り踵を返す

『オィ　オィ　そこのお前だよ』

っん？　俺様にお前？ったく誰だ
もう一度振り返る。

辺りをキョロキョロ見渡しても
やっぱりいるのはさっきの小っこい犬っころだけだ。



犬が喋ってる？　
っんなワケねぇよな？あぁ、っんなワケねぇよ。


暑さで俺変になったんだな。
もう一度プルプルッと首を振り後退りした次の瞬間


ふわりと微かに甘い石鹸の香りが漂って

「うわっ、うわっ、うわっ、可愛いーー」
黄色い声でそう言って小っこい犬に近寄っていった

「こんにちはワンちゃん。あなたのお名前は？」

『オレか？オレの名前はパックだ』

「パ…ク……」

「パク？　パクって言うんだぁー」

『パクじゃねぇよ、パックだっ』

「パクじゃなくて、パック…」

「へぇー　パック君って言うんだぁー　妖精パック？　うふふっ可愛いお名前でしゅねぇー」

女が動く度に黒髪が揺れ微かに甘い匂いが漂う。うっとりとさせるような香りで思わず笑みが零れていく。

「あっ、ごめんなさい。調子にのちゃって。あんまりにも可愛くって」

「あっ、いやっ」

あっ、いやっ......どころか俺の犬じゃぁねぇ。

「あのぉ……ご迷惑ではなければ抱っこさせて貰ってもいいですか？」

大きな瞳で上目遣いに俺を見る。
ハハハッ……
その瞳を見た瞬間＿＿目の前の女に心を奪われた。


『オィ、オィ、兄ちゃん、そこの姉ちゃんが聞いてんぞ』


ハッと我に返り

「あっ、どうぞ」

「いいんですか？有り難うございます」

愛おしそうに愛おしそうにパックを抱き上げ撫でながら、ポツリポツリと小ちゃな頃に飼ってた犬の話しをしだした。

クゥーン
パックが可愛く鳴く。

『オィッ　兄ちゃん、姉ちゃんと次に会う約束しとけ』


チィッ
生意気に指図か＿＿そう思ったがコイツの助言はあながち間違ってない

「あっ、俺……毎週この時間帯はココら辺り散歩してるんで……」

「えっ？そうなんですか……あたしも毎週この時間帯にこの辺りを通るので」

しばらく話してから

「じゃぁまた」

次の約束をして別れた。


女の名前は【牧野つくし】この先にあるバイト先から帰る途中だった。
それが……犬嫌いの俺がパックを飼い出した切っ掛けだ。


『オィッ司、そろそろ散歩の時間だぞ』

パックは偉そうに俺に指図する。
だが……


「パック～、道明寺さーん」
牧野のこの笑顔に会えれば全てか帳消しになる

牧野は、コロコロとよく笑う。
旨そうに飯を食い
楽しそうに未来を語る。


俺は、夢見る様になる＿＿
牧野の語る未来に俺とパックが加わることを。


パックは色々と手伝ってくれた。


『まぁよ、司には一応恩もあるからな』

照れ臭そうに言ったあと

『今日の晩飯は美味いもん食わせろな』

そんな風にニヤリと笑う。



2年とちょっと付き合って
牧野の語る未来に俺とパックも加わって
俺らは2人と一匹の家族になった。


パックは、時折したり顔で俺を見るが＿＿＿もう喋らない。

あれは真夏の夜が見せた夢？
そうかも知んねぇし
　違うかも知んねぇ

　
だけど＿＿
つくしに会うのが決まっていたように
　パックに会うのも決まっていたんだと思ってる。



犬は相棒＿＿＿　そうだろパック？


クゥーン

パックが嬉しそうにパタパタと尻尾を振った。





不思議な出会いもあるはずさ♪





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