No.013 クピド 類つく
入った瞬間
『コンニチハ コンニチハ』
極彩色の羽根を持つ物体が喋ってた。
しかも……
「いらっしゃいませ」
『イラッシャイマセ』
「何になさいますか?」
『ナンニ ナサイマスカ?』
お店の女の子の喋る言葉を繰り返しながら鳥籠の中でクルクルと回ってる。
「クピド、うるさい!」
女の子が怒れば
「ツクシ、ウルサイ」
名前だけ変えて返している。
「クククッ クククッ」
そのやり取りがあまりにも面白くって思わず笑ってた。
「す、す、すみません」
必死に謝る___
「あんたがツクシ?」
「あっ、はい」
「へぇーー で、あの子がクピド?」
「あっ、はい。五月蝿くてすみません……」
『スミマセン』
「ぷっぷっ あははっ」
ツクシとクピド__まるで掛け合い漫才のようで大笑いした。
笑って、笑って、笑って__お腹を抱えて笑ってた。
「クククッ、腹痛い」
「お客さん、凄い笑い上戸なんですね……」
『ナンデスネ』
「だって__あんた達二人。プッ」
クピドが止まり木をクルクルと嬉しそうに回ってた。
マスターの淹れてくれるコーヒーと特製フルーツグラタンは絶品で__俺はアモルの常連になった。
カランコロンッ
「類さん、お疲れさま」
『ヨッ ルイ』
「おっ、類君 」
アモルに行けば、クピドとマスターとつくしが迎えてくれる。疲れた心を身体を癒してくれる。俺の頑張りの元になった。
暇を見つけてはアモルに通うのが1年続いた。
「おっ、類君!今日は、つくしちゃん風邪でお休みなんだよ」
『ヨッ ルイ』
クピドにもマスターにも会えたけど___
つくしに会えないのが……ツマンナクテ、ツマンナクテ堪らなかった。
次の日もその次の日も、つくしはお休みで……俺とクピドはなんだかシュンとなった。
つくしに会えないまま、急な海外出張が入って……2ヶ月半。
やっと帰ってきた時には、跡形も無くアモルは消えていた。
夢でも見てたんだろうか?っていうくらい跡形も無く。
ビルのオーナーに聞けば、アモルの物件のオーナーが代替わりをしたのを切っ掛けにマスターは、クピドを連れて故郷に戻ったらしい。
つくし?つくしの行方は解らない。
ツマラナクテ、退屈この上ない毎日。
笑いも潤いもない毎日___
以前の生活に戻っただけなのに……ツマンナクテ、ツマンナクテ
夕陽を見ては溜め息、落ち葉を見ては溜め息……
溜め息の連続の毎日で、抜け出してアモルに通っていた時よりも効率ダウンで___
抜け殻状態で毎日を過ごした。
視察で出掛けた東北地方__
良い匂いに釣られて……ふらっと店に入れば
カランコロン
「いらっ……」
『ヨッ ルイ』
パイプを落っことしそうなマスターと、籠の中で嬉しそうに声を掛けて来るクピド……
驚きの沈黙の後
「類君!会いたかったよ」
『ルイサン アイタイ ルイサン アイタイ』
「相変わらず真似っ子クピドですね」
そう微笑めば……
「あははっ、これはつくしちゃんの口真似だよ」
「えっ?」
「もう一つあるんだよ。クピド教えておあげ」
『ルイサン スキ ルイサン スキ』
「これって?」
「僕もこっちに来てから聞いたんだけどね__クククッ、類君……これっ」
そう言ってマスターが手渡してくれたのは……つくしの住所だった。
「マスター、お願いがあります……」
クピドの動画を撮らせてもらった。
マスターは笑いながら
「今度は、是非二人でお出でね」
『オイデネ オイデネ』
止まり木でクルクルとクピドが回りながら口真似をする。
「はいっ」
さっきまで憂鬱に満ち溢れていた世界が楽しさに満ち溢れて行く。
* ****
トントンッ
ドキドキしながらドアをノックする。
「はぁ~い」
ガチャリッ ドアが開いて、つくしが現れる
「…………えっ?な、な、なんでなんで??ゆ、ゆ、夢?」
「うん?夢じゃない。これ」
スマホの動画を再生する。
『ツクシ スキ ツクシ スキ』
「__クピドの伝言を態々届けに来てくれたの?」
「ぷっ、相変わらず__鈍感だよね?」
「えっ?」
「俺がクピドに頼んで憶えてもらったんだよ」
キョトンとした顔してる彼女に、もう一度
「クピドの伝言聞いたから、俺もクピドにお願いしたんだよ」
耳まで真っ赤になりながら半べそかいてるつくしに、小鳥のようにキスをして
ギュッと
ギュッと抱き締めた。
今日も一日ハッピーで♪


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