No.018 オデトと王子さま 類つく
でも本当は違う___小さな彼は、小さな彼女に出会って笑う事を思い出してたんだ。
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「ねぇ、あなたって 王子さま?」
「………………」
「まほうにかかってる王子さまだから おはなしできないの? うんとねあたし、あたしのおなまえは オデト」
何を聞いても男の子の耳には、音が言葉として入っていかなったのに__女の子の名前を聞いた瞬間……オデト?変な名前だなって思ったんだ。それに、魔法にかかった王子様って?この世界に魔法なんてあるわけないだろうって。
反感? うん。そうかもしれない。でも全ての世界をシャットアウトして壊れてしまった彼の心は、その時初めて息を吹き返したんだ。
まぁ、そんな思いも何も関係なく女の子は、色々な事を男の子に話して聞かせた。
「……でね、ヨウコちゃんっていうのがね まいにち あたしを おこるの。でもね、あたしオデトだから、なかないの。たくさん わらうのよ」
夢と現実がごっちゃになったお話は勿論の事、色んなお話を女の子は話す。幼稚園のこと。ママとパパや弟のこと。お庭に咲いたお花やおやつに出たお菓子のこと。沢山の沢山の事を。
「じゃぁ、またあしたくるね」
そう言って帰って行く。ズンズンズンと音がしそうな勢いで。
二人が出会ってふた月が過ぎていた。小さな彼は気が付かついていないけど、小さな彼女と二人の時はとっても柔らかく笑うようになった。
小さな彼女は、バイバイする時決まってこういうんだ
「明日も 王子さまが ニコッとげんきでいられますように」
って。
この言葉を聞く度に小さな男の子は不思議な気分になる。だって、何も話さないし表情も無い筈なんだもの。
ビー玉色の瞳をジィーッと見て
「王子さまの ニコッとは みんなを フレーフレーするニコッとだね。あたしも王子さまのニコッとみると しあわせになるんだ。ありがとうね」
そう言った後、満面の笑みを一つ残し……大きく手を振って帰って行った。
その晩、小さな男の子は久しぶりに鏡を見た。鏡には自分が映ってた。オデトが幸せになるって言ってくれた自分が。
小さな男の子は、ほんのちょっぴり自分を好きになった。
明日オデトに会ったら、本当の名前を聞いて鏡の前で練習した笑顔を見せながら自分の名前を名乗ろうって
「あっ、ついでにオデトじゃなくて__オデットだよっておしえてあげよう」そう男の子は決めて眠りについたんだ
次の日、幼馴染みの友達と憧れの少女がいつものように遊びに来たんだ。彼は昨日練習した笑顔をほんのちょっぴりだけ憧れていた少女で試してみた。
「明日お引っ越しだからね」
ママに言われてバイバイをしに来た___お姫様のような少女に微笑む王子さまの笑顔を見て……ズキンッと胸が痛くなった女の子は、くるりと踵を返して挨拶もせず帰って行った。
二人の気持ちはすれ違い___
月日が二人の思い出を消して行った。
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洋書コーナーを物色する美しい黒髪の女性と、柔らかな茶色の髪を持つ美しい青年……
二人の指先が一冊の本の前で触れ合う。
「あっ、すみません。どうぞ」
「いえいえお先にどうぞ」
お互いに譲り合った瞬間___後ろからニュッと出て来た手に目当ての本は奪われる。
「「あっ」」
二人の声は重なり……お互いの顔を見て笑い合う。
「良ければこの後お茶でもしませんか?」
ビー玉色の瞳に魅せられて……彼女はコクンと頷いた。
それが二人の新しい出会い。
今度はすれ違わない本当の出会い。
「俺、花沢類。あんたの名前は?」
「あたしの名前は、牧野つくし……」
二人があの日々の事を思い出すのは、ずっとずっと先のこと。
やっぱりあなたは王子さま


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