baroque 11
ほんの少しだけ
Rebellion
運命に
Rebellion
逆らいたかった
つくしを中心に和やかで柔らかい時間が過ぎていく。雪乃お婆様は甲斐甲斐しくつくしの世話をやく。
それを見ながらつくしが東京の大学に通うと決めた時の事を思い出していた。
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「絶対に駄目です。赦しません」
何度も何度もつくしの居ない所で繰り返された会話。
「薫は、つくしちゃんが京都に戻って来なくてもいいと思ってるの?」
「そう言う事ではなくて、つくしが勉強したいものがあるので赦してあげて欲しいとお願いしてるんです。いま許さなければ彼女は僕達から逃げて行きますよ___それに、つくしは必ず戻ってきます」
「何故言い切れるのですか?」
つくしと付き合い出した事を僕は、この時初めて報告した。
お婆様は大層喜んで……直ぐ様に筒井、宝珠両家での話し合いになった。
最終的につくしがお婆様に直訴した時。交換条件として出されたのが長期休みの帰省の他に月に三回の帰省。そして__僕との婚約だった。
婚約の言葉に戸惑うつくしに形式的なことだけだから何ら今までと変わりないと話しそれよりも自分のしたいことを第一に考えればいいと囁いた。
「それに__いつかは、僕のお嫁さんになってくれるんだろう?」
おどけながらいつか交わした約束を口にした。
「それに……どうしても嫌になったら内々で交わす婚約だ。忘れたふりをしたって、反故にしたっていいんだよ」
「……嫌になんかならないよ。薫はいやになるの?」
大きな瞳を揺らして僕に聞く。
「僕からつくしを嫌いになる事なんてあるわけないよ」
いつものようにおでこを小突いてつくしを抱き締めた。
「本当に?本当に?嫌いにならない?」
「嫌いになんかならないよ。つくしはなるの?」
「ならないよ。あたしの好きな人はずっとずっと薫だもん」
「だったらさ、お婆様の条件を呑んで自分のやりたい事を手に入れたらどうかな?」
暫く考えた後、コクンと小さくつくしが頷いた。
変わりがない……訳などないのに。そんなことは誰よりも一番僕が知っている筈なのに。
お婆様の執着を武器にして言葉功みに僕は、つくしの未来を手に入れ自由を奪った。
桜咲く嵐山の別邸で、婚約の儀が執り行われたのは、東京に経つ三日前だった。緋色の大振り袖を着たつくしは美しく可憐だった。そして……引き返しのきかなくなった人生に戸惑っていた。
あの日からつくしは、少しずつ僕を憎みだしている。騙してつくしを手にいれた僕のことを。自由を奪っている僕のことを。
だからこそ余計……狂おしいほどまでにつくしを愛してしまうのかもしれない。
つくしが耳につけていたバロック真珠のように僕の愛は歪に歪んでいるのかもしれない。
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「東京での暮らしに不便はないか?」
「はい。あの……お爺様にお願いがあるのですが」
「なんじゃ?」
「もう少し小さな所に引っ越しをしては駄目ですか?……それと……」
通いのメイドが辞めるのを期に全部一人でやらせてもらえないかと言うのだ。
薫が驚いてつくしを見れば、つくしはそっと俯き視線を外す。
誰よりも真っ先に声を荒げたのは
「筒井の人間がですか?一人でですか?」
雲行きが怪しくなりそうな雪乃の声を遮る様に
「あらっ、雪乃ちゃん薫も一時期ニューヘイブンでは自分の事を自分でしていた時期があったわよ。それに鴨川のマンションでは極力人をいれないようにしているのよね?」
「あっ、はい。京都に来るのも多いのであまり広いお部屋だとなんだか……駄目ですか?」
帰省の事を言われれば渋々ながらも雪乃も首を縦に振るしかなく……
直ぐに幾つかの物件が提示された。
どれもこれもつくしが思い描いていた物件とは異なっている。
「あの、もっと手狭なお部屋が......」
「これ以下のお部屋は絶対に駄目です。それに薫も泊まるでしょ?」
薫の事を持ち出されれば今度は、つくしが頷くしかなくて___
つくしは、何も考えずに提示された部屋の中で一番狭い部屋を選んだ。
「無理をしないで大変な時は直ぐにコンシェルジュに言うのよ。お約束よ」
雪乃が何度も何度も念を押す。
「雪乃、つくしちゃんはもういい大人だ。一度言えばわかるよ」
「えぇ、しつこいのは重々承知なのよ。でも心配で心配でごめんなさいね」
愛は重荷だ......


ありがとうございます♪
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