baroque 13
いつの間にか
Beginning
気が付かないうちに
Beginning
あなたと___
迎えの車に乗り込み大学に向う。何度も電車で通いたいとつくしは、訴えたのだがこの事については、雪乃だけではなく皆が反対した。幸い他の大学と違い送迎車付きの生活が格段目立つものでもない。
友人と出掛ける際には、それと解らないように配慮はされているがSPの者が幾人か付いている。会話を聞かれる事までは無い筈だが誰とどこにいったかは逐一報告がされている筈だ。護衛の目を感じないで済むのはセキュリティがしっかりとした大学構内とマンション内だけだ。12の年まで自由な生活を送っていたつくしがこの生活に窮屈さを感じてしまう事は、当たり前なのかもしれない。
「ではつくし様、先日と同じくらいのお時間にお迎えにあがります。いってらっしゃいませ」
「えぇ、お願いいたします。いって参ります」
帰りの約束を交わし車を降りる。
構内に入れば友人達から声が掛かる。
二限目の終わりを今か今かと待ちながら授業終了の合図と共に教室を後にする。
パタパタパタパタ
タンタンタンッ
階段を駆け降りて工藤教授の部屋に向うつくしの顔は、喜びで満ち溢れている。
トントンッ
「牧野です」
工藤教授に挨拶をしながらキョロキョロと辺りを見回せば、工藤教授が笑みを浮かべながら
「総二郎君なら奥の部屋で寝てますよ」
そう声をかけてくる。見透かされているようで恥ずかしくなったつくしは、お弁当箱を振りながら
「あっ、皆で食べようと思ってお弁当作って来たので……」
「いつもすみませんね。では総二郎君が起きてくる前に頂きますかねぇ」
「ちょっ、先生……起きてますよ」
総二郎がひょっこりと顔を出す。
「あははっ、今までグースカ寝てた人には思えませんね。総二郎君にはつくしちゃんレーダーでもついてるかのようですね」
軽口を叩きながら席に着き平野助手が淹れてくれた茶を啜りながら四人でお弁当を食べる。
今までも週に一度工藤教授の部屋で手伝いをしていたのだが____いつの間にかそれに総二郎が加わるようになっていたのだ。
「では今日は、こちらの分をお願いいたします」
工藤教授に手渡された資料を奥の部屋で時折軽口を叩き合いながら二人で纏める。
総二郎は、優しい眼差しを浮かべながらつくしを見る。
「うんっ?なに?」
「いやっ、すげぇ考えてること丸わかりだなって思ってよ」
「そんなことないっちゃ。それを言うなら、総だって同じっちゃ」
「俺?っんなこと言われたの初めてだよ」
「えぇ~、こんなにわかりやすいのに? お腹空いた~ 眠い~ どっかに可愛い姉ちゃんいないかな?で、総の90%は出来てるっちゃ」
「ったく!」
言葉と共に
ピンッ
総二郎の指先がつくしのおでこを弾く……
つくしの大きな瞳が見開き総二郎を見つめた。
重なりあう瞳と瞳
つくしの胸は早鐘を鳴らしたようにドキドキと音をたてている。
無音の時間が二人の間に訪れる。
トントンッ
ノックの音がして平野がつくしに声を掛けて来る。
「つくしちゃん、もうじき6時半になりますよ。お迎えの時間じゃないですか?」
つくしは我に返りテーブルの上の自分の荷物を慌ただしく片付けながら
「......じゃっ、あたしこれで失礼します。先生に宜しくお伝え下さい」
コートを羽織り慌てて部屋を飛び出して行った。
「つくしちゃんってシンデレラみたいですね。あらっ、お弁当箱」
「......靴の代わりに弁当箱のシンデレラっすか」
総二郎はくすりと笑って空の弁当箱を振ってから
「俺、ひとっ走り届けてきます」
弁当箱を抱えてつくしの後を追って走った。
カタカタと音をたてて弁当箱が揺れている。


ありがとうございます
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