baroque 14
あなたと
happen
出逢ってしまった
happen
いいえそれは__必然
コートを翻しながら走るつくしに総二郎が追い付いたのは校舎を丁度出る所だった。
「つくしっ!」
驚いた顔を浮かべてつくしが振り返る
「総どうしたん?」
「あっ、いや__弁当箱忘れただろう」
カタカタと揺らしながら目の前に差し出した。
「あっ、ありがとう」
「こっちこそ弁当ご馳走様な。今日もすげぇ美味かった」
総二郎の言葉につくしが嬉しそうに微笑む。
「じゃぁ次は、奮発してう巻きにしようかな」
「いいね!でも、青ネギのも旨いんだよなぁー 一口コロッケだっけ?あれも旨かったよなぁー鶏ツクネも旨かったしなぁ」
「ぷっ、総にかかったら何でも美味しくなっちゃうじゃん。お夕飯の時間だからお腹空いちゃったんじゃない?うふふっあっ、ゴメン__車が待ってるからもう行くね。じゃぁまたね」
「あぁ……またな」
飯でもどうだ?そんな言葉を総二郎は呑み込みながらつくしの小走りに駆けて行く後ろ姿を見送った。
「シンデレラか……あながち間違ってないんだよ……な」
時間に追われる様につくしは迎えの車に乗り去って行く。そればかりか鴨川以来、大学構内以外の場所で会った事がないのだ。何度か冗談めかして誘えば困った顔をしながら曖昧に笑う。
「嫌われてはいない……よなっ……」
一人呟き頷く。
嫌われてはいない__いや、むしろ好かれてる自信がある。
なのに……
つくしを目の前にすると初めて恋をした少年の様に臆病になってグイグイと押し進められない。
総二郎は背伸びを一つしてから踵を返した。
/*/*/*/*/*/*/
つくしは迎えの車に揺られ帰路につく。
息咳切りながら追い掛けて来てくれた総二郎を思い出して自然と笑みが出ていた。
エントランスに吸い込まれる様に車が入って行く。
生体認証キーで解錠する。部屋の中は空調システムによって快適な温度に保たれている。
ルームウェアーに着替えた後、冷蔵庫から朝作った残り物を取り出し皿に盛る。ぼんやりと夜景を見ながら食事をとった。
時計を見ればまだ8時を指していて昂った精神のまま眠りにつくのは早過ぎて……マンション内のプールに行ってみる事にした。スイムウェアをバッグに詰め込み部屋を出た。
「ぷはぁっーー うーーん気持ち良い」
水面には摩天楼が映り込んでいる。
パシャパシャと泳ぐ音がして__後ろを振り向けば形の良いクロール姿が目に入って来る。
「綺麗」
思わず口に出し見つめていた。
「ヨッ!」
男が隣りに立ちつくしに声をかけて来る
「__えっ、なんで?」
「いやっ、それ俺の台詞……ここのマンション俺の隠れ家に使ってんだよ」
「そうなん……すごい偶然」
「なっ。つぅか、いつ引っ越して来たんだよ?」
「もう半月くらいになるかな」
指を折りながら返事をすれば
「マジ?じゃぁ、連絡取り合ってた時すげぇ近くに居たりしたんだな。クククッ」
「あっ……ぷっ ホントだ」
20分程泳いでからプールをあがる。
「ラウンジで少し飲んでかねぇ?」
「ラウンジ?」
「あぁ、バーラウンジがこの上にあんだよ」
つくしは逡巡したあとに小さく首を振る
「ごめん」
「忙しいのか?」
「そうじゃないんだけど__ラウンジだと他にも沢山人がいるでしょ?」
黒真珠のような美しい瞳が総二郎を見つめた。


ありがとうございます
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