イノセント 18 司つく
司が眉を顰めこめかみを押さえた
「どうされました?」
「………」
無言の答えが返って来る。
「__あの、説明させて頂く前に化粧室に行ってきても宜しいですか?」
大迫に声をかけた。
つくしは、化粧室には向わず給湯室に向った。
お湯を沸かてして丁寧にコーヒーを淹れ盆に乗せた。
かつて司のために淹れた事のあるコーヒーを。
コンコンッ
社長室の扉がノックされ盆を持ったつくしが入って来る。
コトンッ
司の前に湯気の立ったコーヒーが静かに置かれる。
芳香が一面に広がる。
「どうぞ」
勧められ口にする。
「……旨い」
司の呟きを聞きつくしが柔らかく微笑む。
司がつくしの顔を見つめ二人の視線が絡み合う。見つめられた瞳から先に視線を逸らしたのは、つくしだった。
かつて死ぬ程に愛した男の視線にズキンと胸が痛んだのだ。つくしは自分の心に言い聞かせる自分のこの胸の痛みは、過去の幻影だと。今の道明寺司では無く過去の司への思慕だと。
ビジネスモードの表情に切り替えて司に声をかけた。
「社長、どちらをご説明させて頂ければ宜しいですか?」
顔の前で両の手を組みながらとうに熟知した説明を聞く。司の心の中に狂おしい程にこの女が欲しいと思う気持ちがフツフツと沸き上がってくる。
「___以上になりますが……」
ありきたりの質問を幾つかし終えた後に訪れる静寂の時間。
「他にご質問がございませんようでしたら、私はこのまま失礼させて頂いて宜しいでしょうか?」
司に向ってでは無く大迫に向けて問えば
「食事をして帰る。牧野も付き合え」
司の声がする。
「__あのすみません。今日は、このままお暇させて頂こうかと」
「大迫、翡翠に連絡しろ」
つくしの声など聞こえなかったかのように話しは進められ__30分後には大迫と司、つくしの3人で翡翠で食卓を囲んでいた。
さしたる会話も交わされずにししおどしの音だけが鳴り響く。
司は、目の前の女の所作を__いいや美味しそうに食べる姿を盗み見ていた。味気ない食事が時間がつくしといるだけで違うものに変化するのだ。
本来ならばそれを恋と愛と呼ぶのだろう。
同時にやってくる苛々した気持ちが、焦燥感が、司の本当の気持ちを曇らせる。
止めをさしたのは___つくしがチラリと腕時計に目を落とした瞬間だった。
赦しはしない___そんな感情が再び訪れたのだ。
「大迫、食後酒を頼む。__牧野にはアイスワインを」
食後酒の赤のアイスワインと共に玄桃がつくしの前に供された。
「11月末の桃ですか?」
目をキラキラと輝かせながら口に含ませている。
桃の果肉が咀嚼され赤い色の液体がつくしの口許から身体の中へ注がれて行く。
司は満足げにその様を見つめた。
***
「大変ご馳走様でした」
礼を言い車から降りようとした瞬間
酒に酔ったのか?
つくしの身体に眠気が襲いふらりと身体が揺れた。
「牧野、大丈夫か?」
「あっ、はい。……すみません。大丈夫です」
つくしが車を降り会釈を一つした。
必死に眠気と闘いながらエレベーターに乗りこみ部屋に戻った。
お風呂をためる時間がもどかしくてシャワーを浴びた。
眠気と闘いながら崩れるようにベッドに入り眠った。
ガチャッ
つくし以外誰も入れない筈の部屋のドアが開いた。
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