イノセント 20 司つく
「とは言え__持ち物というだけでお見かけした事はないのだけどね。あら、長々とお話しちゃったわね。牧野さんこれからお仕事だったわよね」
倫子が最後に放った言葉で資産活用の一環で持っているマンションだと合点がいきホッと息を吐きながら
「あっ、はい。またお会い出来るのを楽しみにしております」
会釈をしながら席を立てば倫子がヒラヒラと手を振っている。
マンションから社までは歩いて5,6分程度の近さだ。風と光を浴びながらビルの中を歩く。
昨日渡された社員証をタッチしてセキュリティーゲートをくぐる。エレベーターに向おうとした所で警備員に声を掛けられた。
「そちらの社員証ですと奥の直通エレベーターになります」
「奥ですか?」
「はい。奥の直通エレベーターになります」
つくしの問いかけにもう一度同じ言葉が返された。
眉根を寄せながらも奥に進みIC カードをタッチして中に乗り込む。着いた階は___昨日来た社長室のある階だった。何かの間違いではないのかと踵を返そうとした瞬間、社長秘書室の扉が開き見知らぬ女性が出て来た。
「牧野さん、おはようございます」
「おはようございます___あのぉ……」
言葉を繋げようとしたつくしに
「恐れ入りますがこちらに用意しております洋服に着替えて頂けますか」
「着替えるですか?__それはどう言った?」
「大変申し訳ないですが__私は大迫より指示を受けているだけですので」
冷笑とともとれるような笑顔を返され、無言でワンピースを手渡された。
手渡されたワンピースに着替え戻れば大迫が待っていて社長室に入る様に促された。司の前で大迫に聞くわけにもいかず__何もする事も無く......眠い身体を支えながら昨日と同じ様に司と大迫の後ろに待機する形になった。
「牧野、コーヒーを淹れてくれ」
司に頼まれ給湯室に向った。
「はぁっー」
小さく小さく溜め息を洩らしながら給湯室の壁に寄り掛かった。
一体全体自分は何のためにこの場所にいるのだろうか?立川に居れば今頃忙しく動き回っている筈なのに……仕事と言えばコーヒーを淹れることだけなんてと__焦燥感が生まれる。
「はぁっー」
社長室に戻る前にもう一度小さく溜め息を洩らした時……幾人かの女性に給湯室の出口を塞がられた。
「あの__すみませんが通して頂けますか?」
つくしが声をかけても知らんぷりを決め込んでいる。もう一度声を掛ける。
「通して頂けますか?」
「あなた道明寺社長にどうやって取り入ったの?」
巻き髪にした美しい女性に意地悪く問われる。
「__取り入った?どう言った事でしょうか?」
鬱屈していた気持ちを抑え冷静に問い返せば
「あらっ、嫌だ。そのままでしてよ。ねぇ皆さん」
巻き毛の女が言えば、取り巻きの女達がうんうんと頷き
「枕営業とかいうのかしら?そうじゃなくって」
「あらっ、嫌だこんな貧相な身体で?」
うんざりする様な答えが返って来る。
「ふっ」
あまりにもセオリー通りの意地の悪い物言いに英徳時代を思い出して自嘲すればキッと睨まれる。
言われの無い意地悪__だからあの男に関わるのは嫌だったのに......
「皆さんがどんな勘違いをされているか存じませんが私は別に社長専属ではございませんので......それとすみませんがコーヒーが冷めてしまうのでこちら通して頂けません?」
「フンッ」
憎々し気に睨まれ道が開いた。
つくしの心の中に遣る瀬無い思いが渦巻いて行く。
「はぁっーー」
短時間の間で何度も何度も溜め息が零れる。
少しずつ少しずつ、つくしの心の中に澱がたまっていく。
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