No.022 ありったけ 司つく
無茶苦茶な事をいってることくらい百も承知だ。でも、でも追いかけてこない司に頭にきてる。
確かに追いかけるなといったのはあたしだ。放っておいてと啖呵を切ったのもあたしだ。
でも、でも……前の司なら道明寺なら追いかけて抱きしめてくれたのに
「バカ……」
発端は、些細な事だった。それがいつの間にかヒートアップしていて要らぬ事を口走っていた。
「あぁあ……」
思わず溜め息を吐いていた。
のんびりとした声で鳥達が囀ずっていて、いつもなら心地好いその囀ずりさえが鬱陶しくてしょうがない。
「鳥の囀ずりにさえ当たってるあたしって……ハハッ重症だよね」
分かってる……司への態度が八つ当たりだって事くらい。
でも……嫌だった。
でも……嫉妬した。
そう……嫉妬したんだ。
いつもなら無愛想な司が、柔らかく笑ってる姿で雑誌に載ってるのに嫉妬した。
「浮気ものー」
叫んだ瞬間
ふわりと優しい風が吹いて後ろから抱き締められた。
「ッチ……誰が浮気もんだって?」
「____」
「ったく、お前がキョトキョトしてんのはあっても俺はお前だけだろうが」
穴があったら入りたいって……きっとこんな時に使う言葉。
でも__司に抱き締められながら囁かれる言葉があまりにも甘美で幸せで聞き入ってる。
「ちったぁー落ち着いたか?」
「___落ち着かない。まだ怒ってる」
なのに、あたしの口は心と正反対の事を紡ぎ出す。抱き締められてお前だけだって言われて嬉しくって、さっきまでの苛々がふっとんだ癖して。
「ったく、なんで怒ってんだ?……ってかその前に浮気もんってなんだ?」
「___ッスン、グブ……あってぇ」
「あってぇってなんだよ。あってぇって」
「……意地悪」
「っぷっ、鼻真っ赤になってんぞ。ホレッ」
いつの間にか司の膝に座らせられて頬についた涙を手で掬われていた。
「__そんな芸当どこで身につけたの」
「ぷっ、前からやってんだろう?っつぅかお前にしかやんねぇだろうよ」
「嘘つき」
「嘘つきじゃねぇだろうが。他の誰を俺の膝に乗せるよ?」
「……でも」
司の指先があたしの髪をクルクルと弄ぶ
「でも?」
「本気で笑ってた___」
「っん?何が?っつぅか俺だって本気で笑うだろうよ」
「___雑誌の対談」
司の瞳が嬉しそうにあたしを覗き込む。
「なにっ?それって妬きもちってやつか?」
「……そっ、そ、そう言うわけじゃないよ。対談相手が美人女優だからってあんなにニヤけてなんてって思っただけ」
「ぷっ、なぁ、世間ではそれを妬き持ちって言うんだぞ」
司が嬉しそうに蕩けそうに笑う。恥ずかしくて恥ずかしくて下を俯けば
「なぁ、お前記事読んだか?」
記事___?
司の笑顔が作り物じゃなくて本物だって言うのにショックを受けて読んでなかった。
「読んでねぇだろ?」
コクンと頷けば
「やっぱな」
ポケットから何やら取り出して小さな小さな何かをあたしの掌に乗せた
「すげぇだろ」
「うんっ。な、なんで?」
「対談の相手___絵本作家と結婚すんだってよ。そんでそいつがお前のファンとやらでお祝いだってよ」
「可愛い」
「なっ、すげぇ可愛いだろう。主人公の2人の名前見てみろ」
「あっ」
「なっ」
絵本の世界の小さな恋人は、真っ直ぐな黒髪の小さな女の子のつんちゃんとクルクル頭の男の子のつぅ君で……二人の冒険のお話だった。
「なっ、こんなん貰ったら笑顔が出んだろ?」
「……うん」
「ふぅっーーー そんな可愛い顔して見んな。抱きたくなんだろうが。ったく、あいつらは学校だし。チャンスなんだけどなー。くぅーマジ抱き潰したい所だけど___お前コレから病院な」
なんの事はない___あたしのこの情緒不安定は、3人目の天使がお腹に宿った合図だった。
お医者様の診断結果を聞いた司は上2人の時と同様にバカみたいに喜んだ。
帰り道___
「なんで、追い掛けてくれなかったの?」
「追い掛けたら走って逃げんだろうよ。幸い今日は寒くもねぇしな。少し苛々してるのを落ち着いたらなって思ってな」
「いつから気が付いてたの?」
「普段なら怒んねぇような事でピリピリしてるから__もしかしたら?って思ってな」
「__ごめんね」
「いいや、お陰でつくしの妬きもちを見る事も出来たしな__役得だな」
そう言いながら柔らかく笑う。醜い嫉妬心も苛々も全て全て包み込んでくれる。
「司、ありがとう。大好き」
ありったけの愛をあなたに伝えて大きな胸の中に飛び込んだ。
司がくしゃりと嬉しそうに笑う。
ありったけの愛を伝えよう


Reverse count 78 Colorful Story 応援してね♪
- 関連記事