No.025 一秒前 あきつく
「あきたじゃない。あきらだ」
「あきたっていってるもん」
「だから、あきら!」
ぷくぅっーーっと頬を膨らませて、チビッコつくしが怒ってる。
夢かぁー 間違いなく夢だ。
「あきらーーー 起きろぉー」
ホラッ、あんな可愛く追い掛けてきてたと思えない程の勢いで俺の部屋のドアを開けるんだもんな。
「起きてる」
ベッドの脇にドスンっと音を立て座ってから
「ベッドの中で微睡んでるのを起きてるなんて言わないの」
俺の鼻を摘みながら偉そうに説教する。
「……って、鼻摘むの止めろ」
ニヤリと笑いながら___
「ギョェーーー や、や、ヤメローーー」
「ふぅぅっーーー やっと起きましたね。あきらお坊ちゃま」
ったく、ったく、ったく
毎朝、毎朝、コイツは
クシャクシャにされた髪を整えながらベッドから飛び降りた。
朝食の席
「___立派な社会人だろ?そろそろ大人になれよ」
「あらっ、充分大人ですよね?ねっ、芽夢ちゃん絵夢ちゃん」
「えぇ、もちろんですわ。つくしお姉ちゃま」
「つくしちゃんが子供ってことは、あきら君もまだ子供ってことよね」
「えぇママ、そう言う事ですわよね」
つくしは、女3人従えて__俺、全くもって勝ち目なし......トホホっ
「ほらっ、行くぞ」
「はーーい では行って参ります」
どこに行くかって?
俺らの仕事場……
丁稚奉公先の双葉物産。
美作の家訓で他所の飯を食えで、他所で働いてる最中だ。
なんでつくしも一緒なのかって?
俺の後を付いてくる__金魚の糞のように。
つくしに言わせると俺がつくしの行こうとする道々の前を歩いてるだけらしい。
誰の影響か?あんなに可愛く付いて来ていたのが年々と小生意気になってくる。
「おっ、おいっ、そんな横を歩いたら転ぶぞ」
「大丈夫、大丈夫」
調子に乗ってヒラリとスカートを翻す。グラリッと身体が揺れてつくしの身体が宙に舞った。
つくしをキャッチして俺が測構に落ちた。
運悪く昨日の雨水が残っていて靴の片方は水浸しだ。溜め息を吐きたいところだが
「ぷっ、あきらビショビショ~」
「ふぅーー 本当につくしばっかりは……もっと落ち着け」
「はーい」
「はーいじゃない。はいだろ?」
「ふぅわぁーーい」
「つくし!」
「ありがとう。あきら」
ニコッとつくしが笑えば……全部全部許してる。小ちゃな頃からつくしのこの笑顔だけには逆らえないだよな。
「ったくなぁ、世話のかかる奴だよ。って、言ってる側からスキップしてるな。ったく、ガキじゃないんだろが」
「うふふっ、ガキじゃないよ。なんならガキじゃないかどうか試してみる?」
「結構だ。年上にしか興味ないからなっ」
バコッ
「痛っ」
「バーカ」
ったく……コイツばっかりは見かけがどんだけ変わろうが変わらない
「つくし、帰りは?」
「今日は、フォレスタで合コン」
「聞いてないぞ」
「言ってないもん」
「終わったら連絡しろ」
「やだ」
「やだじゃないだろう?俺ん家を信用してつくしを預けてるつくしのご両親に顔向けできないだろうが」
「毎度毎度あきらが迎えにきたら彼氏の一人も出来ないでしょ」
「それは俺の迎えは関係ないだろうよ?第一俺にきちんと挨拶も出来ない様な奴ダメだろうよ」
「なんであきらに挨拶しなきゃダメなの?」
「なんでって、なんでもだよ」
「横暴」
唇を尖らせながら漆黒の瞳で俺を見る。
一瞬___
吸い込まれそうになって首を振った。
気まずい雰囲気が訪れて二人歩く……
「あぁ~もうダメ。……あたし、あきらが好き好き好き大好き……以上、報告終わります。じゃあ先に行くね」
フレアースカートをヒラヒラと翻しながら前を走って行く。
「つくし__」
俺の声は、雑踏の中にかき消される。
いつもならひょっこり現れるお昼タイムにも現れないで時間が過ぎて行く。
「はぁっーー」
思わず出て来る溜め息。
つくしは、可愛い。
ずっと一緒にいるから気心も知れている。
だけどつくしは妹みたいなもんだ。
それに、あいつに手を出してみろ
それこそ、年貢の納め時になっちまう__いいのか俺
凡ミス連発で残業になって気が付けば9時を過ぎていた。
つくしがきちんと帰路についたのか確認の電話をすればお袋は暢気に
「あらぁ~あきら君、つくしちゃんなら今日は飲み会で遅くなるって言ってたけどあきら君一緒じゃないの?」
なんて言い出す始末だ。
.....俺はつくしに電話する。
〝お客様のかけた電波の届かない所にいるか......〟
何度も何度も繰り返されるアナウンス。
コートを掴み部屋を飛び出した。
瞬間___
ドアの外に踞る物体を発見した
「つ、つ、つくし?......ど、ど、どうした?」
「……迎えに来ないから」
そう言った後
黒い大きな瞳でじっと俺を見つめる。
見つめられた瞬間......
この瞳に吸い込まれてみようと決心した。
つくしを抱き締める為に手を伸ばす。
恋が始まる1秒前......
二つの思いが重なり合う瞬間


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