ずっとずっと 12
お世辞にもいい奴なんていえない神楽悠斗。
ただこの男の母親は流石 “多神楽” の女将だと誰もが納得するような、凛としと美しさと気品を持ち、内面には切符の良さと芯の強さとを兼ね備えた女性だった。
「星野つくしです。どうぞよろしくお願い致します。」
「つくしちゃん♪はじめまして♪ うーん 会いたかったわぁ~ 私ね、ずーっと蓉子さんと万理さんから自慢話を聞かされてたのよー。 つくしちゃんと会ってみたいとお願いしても、もうちょっともうちょっとばっかりで~ 挙句の果てには蓉子さんと万理さんの旦那さん達からも自慢話が始まるじゃない。もう会いたくてたまらなかったのよ。 ようやっと解禁なのね~ うーん嬉しい♪ 早速明日からよろしくね」
嬉しそうに微笑みながら、手をむんずと掴み、板場へ連行される。
「明日から来ていただく事になりはった 星野つくしさん。大切な人達からお預かりした御嬢さんだからくれぐれもよろしくお願いね。」
そう言ってみんなに紹介して下さった。
「星野つくしです。何もわからずご迷惑おかけしますがどうぞよろしくお願い致します。」
深々と頭を下げてみなさんにご挨拶をした。
次の日 “多神楽” に行き出された着物を見ると、昨日見かけた中居さん達が着てる和服よりかなり華やいだものじゃないか。
祥子女将に確認すると間違いないから着替えてくれと言われ、着替え終わり板場に向かおうとするあたしに
「先ずは~私の後についてお客様にお顔を覚えて頂いてね♪」
かばん持ちのように女将の後に従うしかないあたし…
頭の中を?????がいっぱい飛び交うが、雇い主には逆らえず、蓉子先生直伝の挨拶を繰り返す。
その姿を満足げに眺める祥子女将。
毎日祥子女将について挨拶周り。
「この子は つくしちゃん♪ うふっ可愛いでしょ~」
なんて嬉しそうに、お客様方に紹介される。
お高いお店だろうに、
「祥子ちゃん 祥子ちゃん」と、毎日訪れる人もいて祥子女将の人気が伺える。
その中でも、毎日昼に晩にと、お伴を引き連れて訪れてやってくる筒井のお爺様とは、すっかり意気投合してしまった。
ただ、このお爺様
「儂の事は、つぅ爺(つぅじぃ)と、呼べと」 五月蠅くて敵わない。
お客様に向かって「つぅ爺」なんて呼べないと断ると、
「じゃぁ店では様をつけても特別に許す」なんて言って いつの間にやら「つぅ爺」と呼ぶように選択させられていた。
働いてるのか働いていないのかよく解らない状態で一週間が過ぎ去っていった。
いつものように祥子女将に連れられ、お客様にご挨拶をして帳場に続く廊下を歩いていると
「つくしちゃんの笑顔って、本当にとても素敵よね~。蓉子さんや万理さんがあなたを可愛がるのが解るわぁ~」
なんて事を美しい女性に真顔で言われた。
大いに照れまくったあたしは、バランスを崩し前につんのめってしまった。
あっ!転ぶ~ と思った瞬間、クックックッと言う笑い声と共に、かぐわしい香の匂いに包まれる。
顔を上げると神楽悠斗がそこに居た。
「危ねぇな~気をつけろよ」
転びそうなあたしを抱き留めてくれていた。
「あら悠斗こんな時間に珍しい。今日はなんのご用かしら?」
「親父のお呼びだよ。多神楽ばっかで暇こいてるんじゃねぇってよ」
ジロリと睨む悠斗に、ばつが悪そうな祥子女将。
「…あ、あ、茜さんが娘さんのお産で忙しいから、代わりよ代わり」
「はいはい。茜さんの代わりなら、前もってわかって手筈は整えんたんじゃねぇのかよ。それによ、ホテルからでも旅館からでも他の料亭からでもなんだって他に代わりになるやつが居るだろうよ。多神楽ばっかで暇こいてねぇで仕事しろってよ。ったくよぉ ‥…お陰で親父の奴俺にすげぇ仕事まわしてくんだからなっ お袋の尻拭いなんていい加減にしてくれよなっ」
「だって、だって~ しぃちゃんも居てはるし、久しぶりの女将業は楽しいし… そ、それに顔繋ぎは多神楽でちゃんとやってたわよ。 皆さん久しぶりだって喜んでくれはって、この一週間普段中々お会い出来ない方達とお会いしてお話できたのよ…しっかり貢献してるわよ」
「……だ・か・ら、親父はそれが気にくわねぇんだよ。待てど暮らせとお袋が帰ってこねぇは、他の男どもがお袋にすりよるわぁ 筒井の爺さん連中にいたっては、親父にわざわざお袋に会ったなんて連絡寄越してくるわぁで、親父の奴すっかり拗ねていやがるんだよ。周りのもんがえれぇ迷惑してるから早く出社して親父のご機嫌どりしてくれよなっ。遠藤なんて毎日死にそうになってんぞ!!」
ぼぉっと2人のやり取りを聞いてたあたしは、突然…まだ自分が悠斗の腕の中だという事に気が付いた。
瞬間、 「ヒャッ」 ドォン と悠斗を力一杯突き飛ばしてた。
「痛てぇ 転びそうな所助けてやったのに突き飛ばすって、あんだよ。ったく、お前は!!」
「ご、ご、ごめんなさい? あ、あ、ありがとうございます?」
「って、何で疑問形なんだよ。やっぱわけわかんねぇーー」
肩を震わせ、クックッ笑う悠斗。
「あら~悠斗ったら つくしちゃんと知り合い?」
「大学の後輩だよ。トップクラス合格のがり勉女2人組の片割れ カオのダチだよ。」
「えっ、つくしちゃんって京大だったの? で、かおるちゃんのお友達なの? あらぁ~それなら教えてくだはってもいいのに、蓉子さんも万理さんも、やっぱりいけずやわぁ~」
「えっ? 履歴書に大学名書きましたけど…」小さな声で呟くと
何故か自慢げに祥子女将は
「私の信条は、実際の本人を目で見て感じる事。履歴書を見る事じゃないからあんな紙には興味ないの」
「…偉そうに何言ってるのか解んねぇけど、星野つくしを気に入って“多神楽”で皆に自慢したかっただけだろうよ。それなら親父のとこで事足りるんだから行くぞ! 車待たせてるから早く乗れよ」
悠斗はそう言うと、祥子女将(もとい専務?)とあたしを迎えに来ていた車に押し込んだ。
この出会いは、偶然なのだったのだろうか。それとも……
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嬉しそうに微笑みながら、手をむんずと掴み、板場へ連行される。
「明日から来ていただく事になりはった 星野つくしさん。大切な人達からお預かりした御嬢さんだからくれぐれもよろしくお願いね。」
そう言ってみんなに紹介して下さった。
「星野つくしです。何もわからずご迷惑おかけしますがどうぞよろしくお願い致します。」
深々と頭を下げてみなさんにご挨拶をした。
次の日 “多神楽” に行き出された着物を見ると、昨日見かけた中居さん達が着てる和服よりかなり華やいだものじゃないか。
祥子女将に確認すると間違いないから着替えてくれと言われ、着替え終わり板場に向かおうとするあたしに
「先ずは~私の後についてお客様にお顔を覚えて頂いてね♪」
かばん持ちのように女将の後に従うしかないあたし…
頭の中を?????がいっぱい飛び交うが、雇い主には逆らえず、蓉子先生直伝の挨拶を繰り返す。
その姿を満足げに眺める祥子女将。
毎日祥子女将について挨拶周り。
「この子は つくしちゃん♪ うふっ可愛いでしょ~」
なんて嬉しそうに、お客様方に紹介される。
お高いお店だろうに、
「祥子ちゃん 祥子ちゃん」と、毎日訪れる人もいて祥子女将の人気が伺える。
その中でも、毎日昼に晩にと、お伴を引き連れて訪れてやってくる筒井のお爺様とは、すっかり意気投合してしまった。
ただ、このお爺様
「儂の事は、つぅ爺(つぅじぃ)と、呼べと」 五月蠅くて敵わない。
お客様に向かって「つぅ爺」なんて呼べないと断ると、
「じゃぁ店では様をつけても特別に許す」なんて言って いつの間にやら「つぅ爺」と呼ぶように選択させられていた。
働いてるのか働いていないのかよく解らない状態で一週間が過ぎ去っていった。
いつものように祥子女将に連れられ、お客様にご挨拶をして帳場に続く廊下を歩いていると
「つくしちゃんの笑顔って、本当にとても素敵よね~。蓉子さんや万理さんがあなたを可愛がるのが解るわぁ~」
なんて事を美しい女性に真顔で言われた。
大いに照れまくったあたしは、バランスを崩し前につんのめってしまった。
あっ!転ぶ~ と思った瞬間、クックックッと言う笑い声と共に、かぐわしい香の匂いに包まれる。
顔を上げると神楽悠斗がそこに居た。
「危ねぇな~気をつけろよ」
転びそうなあたしを抱き留めてくれていた。
「あら悠斗こんな時間に珍しい。今日はなんのご用かしら?」
「親父のお呼びだよ。多神楽ばっかで暇こいてるんじゃねぇってよ」
ジロリと睨む悠斗に、ばつが悪そうな祥子女将。
「…あ、あ、茜さんが娘さんのお産で忙しいから、代わりよ代わり」
「はいはい。茜さんの代わりなら、前もってわかって手筈は整えんたんじゃねぇのかよ。それによ、ホテルからでも旅館からでも他の料亭からでもなんだって他に代わりになるやつが居るだろうよ。多神楽ばっかで暇こいてねぇで仕事しろってよ。ったくよぉ ‥…お陰で親父の奴俺にすげぇ仕事まわしてくんだからなっ お袋の尻拭いなんていい加減にしてくれよなっ」
「だって、だって~ しぃちゃんも居てはるし、久しぶりの女将業は楽しいし… そ、それに顔繋ぎは多神楽でちゃんとやってたわよ。 皆さん久しぶりだって喜んでくれはって、この一週間普段中々お会い出来ない方達とお会いしてお話できたのよ…しっかり貢献してるわよ」
「……だ・か・ら、親父はそれが気にくわねぇんだよ。待てど暮らせとお袋が帰ってこねぇは、他の男どもがお袋にすりよるわぁ 筒井の爺さん連中にいたっては、親父にわざわざお袋に会ったなんて連絡寄越してくるわぁで、親父の奴すっかり拗ねていやがるんだよ。周りのもんがえれぇ迷惑してるから早く出社して親父のご機嫌どりしてくれよなっ。遠藤なんて毎日死にそうになってんぞ!!」
ぼぉっと2人のやり取りを聞いてたあたしは、突然…まだ自分が悠斗の腕の中だという事に気が付いた。
瞬間、 「ヒャッ」 ドォン と悠斗を力一杯突き飛ばしてた。
「痛てぇ 転びそうな所助けてやったのに突き飛ばすって、あんだよ。ったく、お前は!!」
「ご、ご、ごめんなさい? あ、あ、ありがとうございます?」
「って、何で疑問形なんだよ。やっぱわけわかんねぇーー」
肩を震わせ、クックッ笑う悠斗。
「あら~悠斗ったら つくしちゃんと知り合い?」
「大学の後輩だよ。トップクラス合格のがり勉女2人組の片割れ カオのダチだよ。」
「えっ、つくしちゃんって京大だったの? で、かおるちゃんのお友達なの? あらぁ~それなら教えてくだはってもいいのに、蓉子さんも万理さんも、やっぱりいけずやわぁ~」
「えっ? 履歴書に大学名書きましたけど…」小さな声で呟くと
何故か自慢げに祥子女将は
「私の信条は、実際の本人を目で見て感じる事。履歴書を見る事じゃないからあんな紙には興味ないの」
「…偉そうに何言ってるのか解んねぇけど、星野つくしを気に入って“多神楽”で皆に自慢したかっただけだろうよ。それなら親父のとこで事足りるんだから行くぞ! 車待たせてるから早く乗れよ」
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