No.028 タルトポワール 類つく
愛しい彼女を呼んでみれば、人差し指がシィッーーの合図をしている。
小首を傾げてジィーーッと牧野を見れば顔を赤らめながら
「類、反則」
可愛い事を言って来て__俺の小指に小指を絡めながら
「そろそろ帰ろうかっ?」
なんて囁いてくる__
俺は、愛しい彼女を見つめてニッコリと微笑む。
~*~*~*~*~*~*~*~*
「類、類、寝坊助類__ニヤニヤしてないでそろそろ起きろーー」
ガックシ__
どうやら夢だったらしくって肩を落としながら目を覚ました。
「いつ来たの?」
そう聞けば
「1時間くらい前__かな?」
「えっ、そんな前に来て何やってたの?」
「っん?……ホラっ」
つくしが掲げてみせてくれたのは?????
「それ、何?」
「うわっ、それ何って失礼だなぁー。どっからどう見てもウサギちゃんでしょ!」
お餅みたいに頬を膨らませてプンスカ怒ってる。膨らんだホッペを指先でツンとしたらどうなるのかな?なんて事を考えてたら勝手に指先がつくしのホッペをツンとしてた
ツンッ
プシュゥーーー
と空気が抜けるわけがなく。
「あっ、またそうやって人の話し聞いてない!もぉ類は!!」
怒られる始末だ。怒ってる姿も中々面白いから良いんだけどね。
まぁそれもあんまり長くなってくると眠くなっちゃうから……
「タルトポワールが用意してあるみたいだけど食べる?」
牧野の瞳がキラキラと光って首を縦に振る。目まぐるしいほどに変わる表情に思わず笑みが溢れる。
「行こう」
本当は部屋に運ばせればいいんだけど、どさくさに紛れて手を握って居間まで連れて行く。
「る、る、類!見て見て凄い大きなラフランスのコンポート」
「そうだね」
「うわっ、美味しい。うーーーん。美味しい」
「加代、美味しいってさ」
「もう、最高に美味しいです」
「左様でございますか。それは嬉しゅうございます。では次作る時も必ずお召し上がりになって下さいませ」
加代が優しく微笑み牧野がブンブンと首を振る。
なんて事のない風景なのに__この瞬間ここに牧野がいる。ただそれだけでこの上ない幸せを感じる。
「牧野、じゃぁ今度加代が作った時も食べるって約束守んなきゃだよ」
「ぷぷっ、そんなお得な約束♪うふふっ するする。いやいやさせて頂きます」
クスクス笑ってるけど___あんた、来年一緒にケーキ食べるの約束してるんだよ? 嬉しさで思わず笑みが出る。
「あっ、加代さんコレって何に見えます」
ピンクの物体を取り出して加代に聞いてる。
「あらっ、可愛いコブタちゃんですわね」
「くくくくっ……加代、それウサギだって」
「類、笑い過ぎ」
「あらっ、これは大変失礼致しました」
「いえいえ、もうコブタちゃんって事にしときます。えへへっ」
牧野が笑って、加代が笑って、俺が笑って___邸の中を温かな空気が流れる。
なんて事のない一日なのに___幸せで幸せでたまらない一日。
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目の前のタルトポワールを見ながら過去に思いを馳せた。
「ッパ、どうちまちたか?」
「っん?幸せだなぁーって」
「しょうでしゅか、あーちゃんもしあわしぇでしゅよ。ッパとおしょろいでしゅね」
「うん。そうだね。お揃いだね」
「でしゅね」
「あーちゃん、来年も再来年もずーっとずっとッパとマモンと一緒にタルトポワール食べようね」
「あい」
あーちゃんの元気一杯の返事と共に、甘い甘い幸せが胸の中に広がっていく。
思い出の味はどんな味?


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