娘 総つく
庭の花を摘みながら__夕焼け空を眺めた。
静寂を破る大きな声がする。
「父様も、兄ぃ様もうるさーい」
沙都が大きな声をあげて怒鳴っている。
今日で二十歳になると言うのに……誰に似たのか?色っぽさとは全くもって無縁な娘に育ってしまった。
総に言わせると__どうやらあたしにそっくりらしいのだけど……あたしの方がもう少しこうなんて言うか色けあったわよね? うん、間違いないわ。うんうん。
なんて事を考えながら縁側から邸に入れば廊下に樹君が居て
「つくしさん、お邪魔してます」
綺麗な所作でお辞儀をされる。
「いらっしゃい。入ったらいかが?」
「あっ、いや__なんか沙都ちゃんの怒ってる声がしたんで」
「あぁ、そうよね。入りづらいわよね」
樹君が曖昧に笑いながら頭を掻いているもんだから
「こっちこっち」
樹君に手招きをして__
隣りの部屋から聞き耳を立てる。
「第一ね私が誰とどこに出掛けようが構わないでしょうが!」
沙都の怒る声が聞こえて来る。
「今日は、俺の誕生日だ」
総二郎が怒鳴り返せば
「沙都の誕生日だけど、父様のお誕生日でもあるんだよ」
恭介が援護射撃する。
「でも、私の誕生日でもあるの!」
沙都がもの凄い剣幕で言い返してる
「うわっ、沙都すごいねー」
「……つくしさん、楽しんでません?」
なんて聞いて来るから__素直に頷いてから
「だって、お相手は樹君でしょ?」
そう聞けば嬉しそうにハニカミながら「はい」と返事を返して来る。
「で、主人が可哀想になって西門の邸に来てくれたんでしょ?」
「……沙都ちゃんの誕生日でもあるけど__家元の誕生日でもありますから」
本当にいい青年だと思う。沙都には出来過ぎた青年だ。
沙都が落としてきた色気と言うものもしっかりと身につけて産まれてきてるしね。
でも
「樹君、沙都と二人で出掛けてあげて」
「で、でも__それじゃ」
「うーーん 折角、二十歳の誕生日だから……ねっ」
「......いいんですか?」
「その代わり十時半の門限には送ってもらえるかな?」
コクンと樹君が頷く。
「あっ、あたしと主人は居ないけどね」
そうウィンクした後に
パシーンッ
隣りの部屋に続く襖を両手で目一杯開けば……ギョッとした顔で三人が一斉に振り向いた。
「恭助、りっちゃんと二人でデートして来なさい」
「えっ母様、梨乃は今日は父様と沙都の誕生日会に……」
「父様は、母様と出掛けますから」
「えっ?」
鳩が豆鉄砲喰らったような顔してる恭助は無視して
「家元……いいえ総二郎さん、海に行きましょう」
ニッコリと笑う。
「さぁ沙都、樹君がお待ちかねよ。行ってらっしゃいな」
「流石、母様~!」
樹君の背を軽く押し手を振る。タイミングよく、りっちゃんがやって来たので恭助の肩を叩き
「りっちゃんの家の門限には送れない様にね」
「樹君、じゃっ門限までには送ってやってね。沙都、樹君を襲わないように」
四人に手を振って送り出す。
不満げな顔した総二郎が憮然としながらソファーに腰掛けている。
あたしは無言で近づいてから、両の手で総二郎の頬を包み込んでから貪るように総二郎の唇に舌をねじ込み口腔内をまさぐった後
「総二郎とあたしのお誕生日を祝ったのが二十歳の時だよ__覚えてる?」
色々な事があったあの頃__ひょんなことで二十歳の誕生日を二人で過ごした。 一人ぼっちで誕生日を迎えたあたしをバイクに乗せて海に連れて行ってくれた。手を繋ぎ防波堤を歩いた__あの日、あたしは総二郎の優しさに触れ恋に堕ちた。
だから__娘にも二十歳の誕生日は幸せな思い出を胸に刻んで欲しかった。
沙都!頑張って樹君の将来と沙都の将来を重ねておいでと心から願う。
それが…女親が娘に見る追憶という夢かもしれない。
総二郎があたしの手を取って
「バイクってワケにはいかないが二人で海に行くか?」
あたしは返事の代わりに総二郎にもう一度口づけを落とす
「なぁ、俺達には門限ないよな」
総二郎が悪戯気に笑う
「うん。で、あの日、出来なかった事しようか?」
あたしも悪戯気な笑顔を返した。
沙都、総二郎 お誕生日おめでとう
娘に望むことはただ一つ.......沢山の愛するものに囲まれた人生。お誕生日おめでとう♪

