イノセント 23 司つく
つくしは、車の窓に雨粒があたるのをぼんやりと眺めながら……
何故毎晩の様に会食に付き合わなければいけないのだろうかと考えていた。
大迫からは、これからのプロジェクトで関係してくる人物だとは説明を受けているが__
解せない思いが積もって行く。
「牧野、資料を」
司に声を掛けられて慌てて資料を手渡せば、いつ何時も気を抜くなとばかりに「チィッ」と小さく舌打ちされる。
つくしが気を抜ける時間などなく会食が終わる頃には、ぐったりと全身に疲労感が充満する。帰りの車の中で振る舞われる小さなチョコレートと飲み物を口にした瞬間__一気に気が緩んでいく。一気に気が緩むせいからだろうか?部屋に戻れば眠くて眠くて仕方なくてシャワーを浴びてからすぐに眠りについてしまう日々が続いている。
前日の夜もそうだった......シャワーを浴びた後急激に眠気が襲い崩れる様にベッドに潜り込んだ。つくしは眠る__一度も目覚めること無く朝までぐっすりと。
ほんの些細な事に違和感を感じたのは、
たまたまこの日が休日だったからなのかもしれない。
いつもよりゆっくり目の時間に起きたつくしは、ベッドの中から手を伸ばしスマホを取る。
「九時かぁ、結構寝ちゃったなぁ~あれっ」
大学時代からの友人の紀子から夥しい数の着信履歴が入っていたのだ。
留守電を聞けばいつもの如く飲みの誘いだったのだが
「あれっ?マナーモード解除してた……よね?これだけ鳴らされて起きなかったってこと?」
よく眠る方だとはつくし自身も思っていることだが……
学生時代も立川に居た時も大虎になると電話魔になる紀子の電話攻撃に起こされ無かったことは、未だかつて無かったのだ。
首を傾げながらも気疲れと肉体的な疲れ二つが重なったものだと自分を納得させた。
「うーーーん」
背伸びをした後ベッドから立ち上がる。キッチンでお湯を沸かしてコーヒーを淹れた。タマに習ったつくしのコーヒーは司だけでは無く皆に評判が良かった。ほんの一手間掛けるだけなのに美味しいとよく褒めて貰えるのだ。
「ふっ、タマさんどうしてるかな~元気かな?まだ道明寺邸を仕切ってるのかな」
つくしは、思わず口に出して昔の事を邂逅していた。同時に捨て去った筈の色々な過去が押し寄せて来る。
楽しかった日々……
そして辛くて辛くて堪らなかった日々が。
目を閉じてから首を振った。
大きめのカップにコーヒーを注ぎ一口口にした。
コーヒーのほろ苦さで身体が頭が覚醒して行く。
寝室に戻り勢いよくシーツを剥いだ瞬間、フワリと司の香りが匂い立ったように感じた。
「……なんで?」
訝し気に部屋の中を見回してから__
ハンガーに昨日着ていたスーツが掛かっているのが見えた。
「あぁ、あれでか__」
つくしは無理矢理自分自身を納得させた。
外を見れば昨晩とは打って変わって雲一つ無く快晴だ。
つくしは窓を開け部屋の空気を入れ替える。
全館空調で換気もコントロールされている室内は本来ならベランダの出入り以外で開け放すことなど必要ない筈なのだが__そんな事は百も承知のつくしなのだが長年慣れ親しんだ感覚はそうそう抜けるものでは無いようだ。
部屋の中をスッーーと風が吹き抜けて行く。
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