イノセント 25 司つく
「ふぅっーー あの子あんなに強いなんて思わなかったぁ。って、蒔田さんは帰ったの?」
「あっ、はい。先生、蒔田さんてどこかのお嬢様ですか?」
「飛田さんからの紹介だから__そうなのかな?……って、なんかあった?」
「あっ、いえ。昨日タクシー呼ぶかって聞いたら迎えの車が来ますからって言ってたんで__」
「あらっ、じゃぁガチでお嬢様かな。それにしちゃ随分と人なつこい子だこと」
つくしの淹れたコーヒーを飲んだ後……幾つかの話しをして帰っていった。
立川を見送りながら__自分が立川で得たものを考えていた。小さな受賞作と立川での居場所__そして雅哉。
どう考えてもそれ以外は思いつかなくてつくしは、思案にくれた。
食材の残りで作った夕食を食べた後お風呂にゆったりと使って眠りについた。
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いつの間にかすり替わった日常の朝が始まる。
いつもの様に司に朝のコーヒーを出し席に戻ろうとした瞬間……
「今週末のパーティーは、お前が同伴しろ」
司から声がかかる。
それは問いかけではなく決定の投げかけの言葉でつくしは頷くしか無かった。
でも……確か司には婚約者が居た筈だ。その婚約者と公の場所に出ていた筈なのに……何故だろうとつくしは訝しがったが司には勿論の事、大迫にも聞けなかった。
パーティーに同伴した翌週の朝
いつも通りマンションを出た所でつくしは、後ろからやって来た女に突然腕を掴まれた。驚いて振り返れば、能面の様な顔をした女がナイフを持って立っていた。
「許さない。許さない。あんたなんかに司様は渡さない」
刺される__咄嗟に避けようとしたつくしが車道に飛び出すのと、屈強な男が現れ女が取り押さえられたのはほぼ同時だった。
キキッーーー 車が急停車する音がして
ドサリッ
つくしが倒れ込む音がした。
取り押さえられた女は司の元婚約者だった。女の祖父が会長を勤める企業を全発行株式を買い取る形で道明寺HDが買収していたのだ。買収し終えた会社には、用がないとばかりに婚約者の事は、切り捨てた。
愛されていると思っていた婚約者は直談判するために自分が同伴者として参加する筈だったパーティーに出掛ければ__SPによって行く手を阻まれただけではなく自分が居る筈だった場所につくしが居るのが目に入った。
直ぐさまつくしの住まいと素性を調べ上げ……一人になるチャンスを窺って襲いかかったのだ。
つくしに付けていたSPの手によって女は取り押さえられ、意識を失ったつくしは直ぐさまに道明寺系列の病院に担ぎ込まれた。
「幸いな事にこれと言った外傷はございませんが……」
「外傷はないのに何故目を覚まさないんだっ」
司は苛つきながら足を震わせている。
ガタガタガタガタッと……
「もう少しご様子を見て見ませんと……」
医師の言葉に立ち上がりゴミ箱を蹴り上げた。
「だったらお前は、失せろ」
「ヒィッ」
医師は身体を竦めながら這々の体で部屋を出て行った。病室には司と今未だ眠るつくしだけが残された。愛おしくて堪らないと言った風情で司はつくしの手を握りしめ髪を撫でる。
トントンッ
ノックの音がして大迫が外から声を掛けて来る。
「社長、そろそろ出掛けられませんとお時間が__」
「......解ってる。今行く」
司が乱暴に立ち上がり部屋を出て行くのとすれ違うように立川と雅哉がつくしの元を訪れる。
立川がつくしの顔を覗いた後
「雅哉君、先生の所に行って牧野の状態を聞いて来るわ。ちょっと居てもらっていいかな?」
「あっ、はい。勿論です」
*****
つくしの意識は深い所を彷徨っている。
キラリと光る刃、流れ出る真っ赤な血
神様お願いです。どうかどうか__助けて下さい。
願いが叶った瞬間__
絶望という奈落の底に落とされた。
もがいても、もがいても浮かび上がれない奈落の底に。
優しい手があたしの手を握りしめている。
優しい指先があたしの髪を撫でている。
心の底から喜びが沸いて来る。
なのに__
指先が離れ、握りしめていた手が離される。
再び真っ暗闇に突き落とされる。
「嫌っ、嫌っ あたしを、あたしを一人にしないで」
あらん限りの声を張り上げて......
夢の中でつくしが叫び
手を伸ばす。
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